第21章 一線を越えた男
「彼は死んだが、その現場をあいつに見られた。あの用済みの浪人だ。酷く困惑していたが、「疑われて逃げた」仕方なく犬の紐を切ったと言えば、納得して手を貸してくれた。人を食った犬を斬り殺すのを。・・こんなに操りやすい男、滅多に居ない・・そう思った私は、男を連れ帰った安土にね・・・安土周辺で野犬駆除を始めたのは、彼の意志だ。彼と一緒に駆除し始めた村人も現れた。慈善行為だと浮かれる新たな男は目障りだったねぇ」
転がっていた石ころを蹴り、近くの犬に当てる
何度も何度も
「私はしばらくは協力する振りをしていた。あの浪人の顔を見れば、死にいった男どもを思いだし満足出来たからねぇ・・・でも足りなくなった。あの感覚・・・」
石が当たれば、また別の犬に向けて石を蹴り始める
「っやめて・・」
「なんで?こいつらの興奮、あげてやらなきゃ・・・じっくり食われるより、即死がいいだろう?」
「っ?!」
「あぁ、この犬達はそこからのつきあいだ。駆除した村の近くの洞窟にこの犬を囲った。空腹のままでね・・・そして頃合いを見て、目障りな村人を食い殺させた。あの大名と武士以来の死に様・・・またあの興奮が戻ってきてしまったよ。だけど、さすがに二回目だ・・・あの浪人は、どう言うわけだと問い詰められたよ」
「でもね」と、大山は歯を見せて微笑んだ
「彼はもう、とっくに・・・ね。私は、馬鹿じゃ無い。彼には少量の毒を与え続けていたんだ。出会ってからずっと少しずつ、少しずつ・・・ちょうど自覚も出始めた頃だ。手足の震え、吐き気。私は解毒剤を与える代わりに、彼に仕事をさせた。飴商人の格好をさせてね・・・手始めに毒飴を庄内屋に売り込ませた。私の馴染みの商人だと紹介してね・・・」
ガッと、石が犬に当たれば
キャンという悲鳴と、うなり声が大きくなる
「ひど、い」
「っ、ハハ・・・笑えるね、これから食われる姫様が犬に同情?!姫様の頭の中は花畑ですねぇ・・・アハハっ。そうそう、庄内屋の飴が安土城に持ち込まれたのは予想外だったのですよ。さすがに私も、ぞっとしましたよ?ただねぇ…これは好機とも思いましたよ。第六天魔を暗殺、こんな機会二度と無い…生き残れば、これが私の天命だと考えたんです・・・ですが、さすがは信長様・・・簡単にお近づきにはなれなかった」