第21章 一線を越えた男
「馬は、あそこに近づけられない・・・ここに置いてくぞ」
政宗がそう言うと、三人は馬から下り其処へと走った
日が落ちかけ、空には真っ赤な太陽が大きく現れている
「獣臭・・・ひどいな」
「鼻が麻痺しそうだ・・・深い洞窟だな」
カッカッと石火の音
光秀が太めの枝に火をつけているところだった
「陽が差し込まなくなれば、進めなくなるからな・・・お前達も火を起こしておけ」
三つの灯が洞窟を進み始める
最初は大きな穴だったが、どんどん先に進むにつれ狭くなり出す
そして、道が分かれ始めた
「・・・くそ・・っ、どっちだ・・・」
秀吉が苛つきだした
灯で先を照らすが、どの道も真っ暗なままだ
政宗は、石についた黒い点を見つけた
光秀も同様にしゃがみ込み、別の石を手に持つ
そして指先でそれを拭えば、その指をぺろりと舐めた
「・・・血だな」
「血だと・・・?」
秀吉が駆け寄ってくる
政宗は地面を照らすように灯を当て、血の跡を見つける
「まさか・・」
「湖だろうな・・・ここに来るまで、草履が落ちていただろう。足袋だけで歩かされれば、どこか切っても不思議じゃ無い」
「・・・こっちだ」
政宗は血の跡をたどり、進む方向を見つけた
秀吉は、念のため自分の持っていた灯を其処に置いて行く
「急ぐぞ」
ざっざっ・・と、三人の足運びが早まった
「犬たちに・・・襲わせたの・・・ね・・」
「ご名答。油断していた彼の腕に切り傷をつけて、犬の居る場所まで走って逃げた。あとは、簡単だ。犬を縛っていた紐を切れば、数週間も空腹の犬たちは血の匂いにつられて彼を食い殺す・・・」
ゴクリと興奮したかのように唾を飲み込んだ大山
「どうして・・あなたは、襲われなかったの・・・空腹で死にそうななら、あなただって・・・」
「そう。私も餌に見られる。でも、大丈夫なのさ」
そう言い、懐から取り出して見せたのは大量の馬酔木の葉だ
「野犬はよく知っているよ。これは毒だって事を。だから、私には近づかない・・・今も同じだよ?餌として見られているのは君だけ・・・姫様だけですよ」
(厩舎の馬が食べたのは…この人が落とした葉だ…)
面白そうに笑う大山に、恐怖と悔しさで涙が止まらない湖はせめてもの抵抗と泣き声を上げないように唇をきつく咬んだ