第21章 一線を越えた男
八の字の手ぐさりは、どう手を捻っても抜けそうにない
それを持つと大山は引きずるように、犬たちの間の岩壁に打たれた鉄杭まで連れてくる
そして、手ぐさりの真ん中を差し込むように引っかけた
湖は、両腕を上に上げている状態で手ぐさりを杭からはずそうとするが、杭は海老錠のような形で上手く外せない
「ゆっくり集中すれば、外せるかもしれませんよ?・・・さて、続きをお話しましょうか?」
「・・ッ嫌」
目から涙が溢れ出る
「おや?女子は恐怖に落ちると涙が止まらないのですねぇ・・・そうだ。この子達の事を紹介するついでに、話をすすめしょう」
大山はそんな湖の前に木の椅子を持ってくると、商人らしく上品な座り方をした
「保険にね、あの浪人を巻き込んだんですよ。彼には近くに居て貰うために、村の野犬払いをして貰っていました。彼は私を聖人君子のごとく慕っていましたよ。私が・・・村人から金を取らず、犬を追い払う彼に金を払って・・・犬も殺しては可愛そうだといい、森に繋いで隠した。何も餌の無い場所にね・・・使う予定が無ければ、そのまま餓死さ。でも、使った・・・大名の懐に入った私は、何度目か飴の献上品に毒を混ぜた。その日は、他の菓子商人達も来ていたからね。ちょうど良かった。気に入られていた私が疑われることは無いと思ったんですよ」
(・・・待ってるだけじゃ・・駄目だ・・・どうにか、外して・・・にげなきゃ・・)
自分と商人を見て吠え続ける犬の目は、正常とはほど遠く見えた
餌として見られている・・・そうとしか思えない
「だけど、私を最初に見つけ城に連れてきた武士は違った。隣国の大名が同じ形の飴を食して狂ったと、耳に入ったんだろうね・・・上手いこと飴を食った大名は、私の目の前で苦しみ泡を噴いて死んだよ。だけど、彼は私をずっと見ていたんだろうね・・・帰り間際、疑いの意志を伝えてきた。だが、疑わしきは罰せず・・・そんな様子だったよ。だから、おびき寄せた。正直に話すから一緒に来てくれと・・・」
「くっそ・・・酷い匂いだ・・」
「宗久殿の示した場所は此処だ」
政宗が鼻を押さえるように手で口元を覆えば、光秀は懐から取り出した地図と場所を確認する
「確かに、馬酔木の花だらけだな・・・時季外れに咲いてる・・・」
秀吉の言った馬酔木の花が生い茂る先に、洞窟の入り口がある