第21章 一線を越えた男
そう答えた三成に灯が手渡されれば、彼は側面を照らし指で撫でる
まもなく一番上の層をカチリとずらすと、真ん中にあった小さな正方形を取り出し、側面の層を何層かずらし始めた
その度に、板張り下で小さな音が立つ
最後に最上層を元の位置に戻せば、三成は手を扉に掛けて持ち上げた
「からくりか…誰が作ったのかは知らんが、高度な仕掛けだな」
「このような仕組みは見たことがありません…感心したいところですが、今は留めておきます」
持ち上がった板張りに、外から見ていた奉公人が驚いた
隠し扉は知っているが、誰がやっても開くことが出来なかったからだ
それゆえ、大山も扉を隠そうとはしなかった
遊びで開こうとする者をとがめることも…
それを、今初めて見た男があっという間に開いたのだ
「貴様、この中はどうなっている?」
驚きの顔をしている奉公人に向かって話すが、彼は「誰も知りません」とふるふると頭を振るだけだ
「…降りるぞ」
「はっ」
下に続くはしごを下りれば、其処には動物の剥製や、医師が使うような道具、薬草の壺、鉄の器具、様々な物が並んでいる
「どれもしっかり並んでいる所を見れば、神経質な面があるのかもしれません…」
その一部に、あの飴の包み紙がいくつか置いてある
信長はその隣にある薬草の壺が目につく
同じ柄の和紙で蓋をされているそれを開ければ、見覚えのある薬草が見える
宗久の持ってきたものだ
そしてその横には金糸で装飾された布で何かがくるまれているようだった
手を掛け、その中を確かめる信長
三成は鉄の器具を掛けてあった場所から物が無くなっている空間を見つけた
その場に近くと足で何かを蹴飛ばした
灯を持って行けば…革紐に鉄の鍵
「…鍵」
鍵を手に持ち、壁に掛かる鉄器具を見れば、それは八の字の鉄の輪だ
(これは、異国の手ぐさり…文献では見たことがありますが…なぜこのような物が…)
大山という男
貿易商としての顔が広く、頭が良い
かつ神経質・・・道具がこんなにあると言うことは、殺すこと自体より、殺す過程を楽しむ趣向があるのかも知れない
三成は、普段とは異なる表情を見せていた
拾った鍵を懐に終うと、すっくと立ち上がる
「信長様・・・」
信長は、壺二つと布にくるまれた物を持つと
「解毒剤だ。行くぞ、三成」
と、壺を一つ三成に手渡すのだ