第21章 一線を越えた男
「姫様は、飴・・・食べましたよね?あれは、もとは私の物です。貿易港の商人から買いました。とても高価な品なんですよ。美味しゅうございましたでしょ?」
「っ・・・あれは、あなたが・・・」
「あ、お渡ししたのは庄内屋です。まぁ・・・あれを献上するとは思わず、驚きましたが・・・そういえば、目が合いましたね?あの時・・・」
商人を集めた茶会の席のこと
確かに、この男と目が合った
信長の話に青ざめていたのかと思えば
「あれは、庄内屋の若旦那への贈り物だったのですよ。最近、うっとうしくてね」
「・・・あなたは・・・」
「正直、あの茶会の席で飴包みを見た時には背筋が冷えました・・・が、面白くも感じましたねぇ・・・第六天魔を私の飴で葬る・・・そんな快感を覚えましたぇ?」
ざり、ざっ・・・
砂利、石ころ、そして・・・
(奧に行くほど・・・獣くさい・・っ)
「なんで・・・毒の飴なんて・・・」
「私はね、小さな頃から人とは変わった嗜好があるのです」
「変わった・・?」
「好きなんですよ。生きてる物が死んでいく様が・・・ねぇ」
(死ぬ・・さま・・・)
冷えて冷たくなったと感じる身体に汗が伝う
(この人・・・)
「反応ありませんか?・・まぁ、いいでしょう・・・最初は虫、小動物。さっくりと斬り殺してましたが、なにぶん私のようなひ弱な人間は力がない。少し大きくなって店の手伝いを始めた頃には「毒」を主に扱うようにしてました・・・人は殺してませんよ、この頃は・・・アハハ・・・」
(・・・壊れてる・・・)
「はじめての人殺しは、ちょっとした親孝行が切っ掛けです。品が薄くなったと頭を悩ませていた父・・先代の為に、ちょいと横流しで品を集めたのです。何も知らない先代は喜んで、私のこの性癖の為に倉を改造してくれた。まぁ、あの人は余所で悪さされるより、目の届く範囲で・・・と思ったのでしょうが・・ねぇ?」
「宗久殿?!」
大山の店にたどり着けば、其処には頭を下げる宗久が居た
「お待ちしておりました。店の者には話をつけてあります。金の出入りについては、私がお調べいたしますので、石田様は倉へ」
三成は馬から下りると、宗久はその手綱を受け取る
「ですが・・っ」
「今は、姫様を優先に・・・おそらく、救出に必要になる鍵が倉にあります」