第21章 一線を越えた男
「愉快・・・でしたが・・・もう終わり、かも、しれませんねぇ」
(愉快・・・)
ぞわりと背筋が冷たくなる
頭の上から振ってくるこの声が頭で木霊した
馬から下ろされると背中を押され歩けと指図される
両手を拘束され、頭には布袋をかぶせられたまま押され歩かされる湖
足はもつれ、草履が脱げる
「な、なんの・・話ですか?!」
「ん・・・?あぁ、先ほどの話ですか?あれ・・・姫様は・・・もしかして何にも知らされていませんか・・」
あはは・・・と大山が笑えば、声が反響する
じめじめとした嫉妬、ごつごつとした道
(・・・岩・・・、洞窟?!)
「じゃあ、教えてあげようか・・・話する時間はたっぷりある。此処は誰にも見つからない。動物たちも寄りつかない場所だからねぇ」
何かに躓き湖が転べば、舌打ちをし脇に手を入れ無理矢理持ち上げる男
「この先、長い・・・見えないのは不便か・・・」そう言い、布袋を取って捨てた
「私は、商人ですからね・・・姫さんの側に控える武士のような力は無いのですよ。ご自分で歩いてください、姫様」
袋が外されるが、暗い
薄ら物陰が見える程度だ
目を瞬かせていれば、かちかちと火打ちの音がする
後ろを振り返れば、男の手元で灯がつくのが解った
暗闇に突如ついた灯、目がついていけず視界が霞む
「さて・・・姫様、二回目のご対面でしょうか?」
やっと視界がはっきりしてきたと思えば、間近に大山の顔がある
湖は驚きのけぞると、後ろにそのまま尻餅をつくような形になった
それを見て大山は、目を丸くすると「アハハ」と笑う
洞窟に響くその声は、以前すれ違いに話をした彼とは異なるものだった
「ここは、どこですか」
尻餅をついたままで湖が睨むように見上げれば
「さて?何処だと思いますかぇ?」
「・・・安土領内です。ずっと林の中を駆けていたので、城下の森ですか」
彼は、湖の答えを、目を丸くしてみていれば「ふむ・・・」と自分の頬に手を当て口を開いた
「・・・その反応・・・初めてですよ・・・やはり織田の姫はひと味違いますね・・・それとも、女子は状況を把握するのに時間が掛かるのでしょうか?」
「まぁいい」そう言いながら、大山は湖を足でせかせ立たせる
そして、後ろで拘束した両手の紐を持ちながら前へと押した