第21章 一線を越えた男
少し時間をさかのぼり----
三成と入れ違いで出た湖は、どうしてもあの馬が気になっていた
(・・・城下に行くわけじゃないし・・・厩舎のすぐそばには秀吉さんの御殿・・・大丈夫だよね)
そう思い秀吉と来た道を引き返し始めたのだ
この時点で、大山が怪しいと知っていれば外出しなかっただろうか?
いや、湖の頭の中はあの馬が気がかりだった
そればかりを考えていた
だから、特に秀吉や家康、そして信長の表情にも気づかなかったのだ
門番に挨拶し、石段を降りていれば急に視界が暗くなった
同時に、誰かに両手を後ろに拘束され抱えられる
「っや、誰かっ・・・!!」
じたばた足を動かすも、荷物のように馬に乗せられると何かで固定させられ動けなくなる
ちりりんと、髪飾りの鈴が落ちたがそれに気づく余裕も無い
(嘘・・・ちょっと、やだっ!!)
頭には袋のようなものをかぶせられたのか
「離し・・・って・・」
馬の振動と胸を圧迫されるような重みで上手く話せない
だけど、匂いだけは解る
袋の匂いなのか、この人物の匂いなのか、馬酔木の匂いと獣の匂いが混じった気持ち悪い匂いがするのだ
(・・・っ、この匂い・・・ひどい・・・っ)
物陰に隠れ、城門を見ていれば女が出てきた
「姫様、これからお出かけですか?」
「はい。秀吉さんの御殿に行ってきます。すぐに戻ります」
「誰か共には・・・」
「大丈夫ですよ。近いから」
離れた場所ではあるが、声は聞える
(姫様・・・あぁ・・・あの飴を食べたのに無事だった女か・・・運のいい・・・)
「ほんと・・運がいい女だねぇ」
(どうせなら織田信長で終いにと思ってましたが・・あの姫なら、いいか・・・織田の血筋なのだし・・・)
「あぁ・・・心が震える・・・」
「っや、誰かっ・・・!!」
ざりっ・・・ザッ・・・
「ん?・・・湖様・・・??」
馬の走る音が道から外れた林の中から聞える
「馬・・・?・・・これは・・・」
其処に落ちていたのは、鈴が一つ
見覚えのあるそれに、門番は慌てふためい