第21章 一線を越えた男
家康は、それを手に取ると軽く頷いた
「確かに・・・馬酔木です・・・」
「たぶん、早朝の歩行時に口にしたんだと思うの。聞いた話から考えたら、城門から厩舎の間までで口にしたと思う・・・そのくらいしか解らないんですけど」
湖は、「んーーー」と首を傾げながら眉をしかめる
「どうした?湖」
「その・・・一つだと匂いが薄らでよく解らないんだけど・・・確か、ジャスミンと似た匂いだよね・・・」
「じゃす、みん?なにそれ?」
家康が、湖の出す言葉に疑問を上げるが、当の湖はまだ考え込んでいる様子だ
「・・・話してみろ」
信長がその様子に、湖に口添えをした
「・・・その匂い・・・最近、嗅いだはずなんです・・・でも、何処だったか・・・」
「・・・匂いと言えば、貴様は大山から犬の匂いがすると三成に言っておったな・・・」
(大山・・・商人の・・・あ。)
「大山さん・・・たぶん、そうです。お香だと思い込んでた・・・ジャスミンの匂い、この馬酔木の花の匂いだ・・・あれ?でも、犬飼ってるのに馬酔木は不用心ですよね・・・?気のせいかな・・」
小首を更に傾げる湖に、秀吉が尋ねた
「湖、それは犬にも悪いのか?」
「そうですね・・・馬と似たように、酔ったような状態になります。大量に摂取すれば死んでしまうこともあります」
信長が、目を細め話を聞いて居れば外から声が掛かる
「失礼します、三成です」
襖が開くと三成が入ってくる
同時に湖は自室に戻るようにと秀吉から言われ、湖は天主から出て行った
「・・・いいんですか?教えておかなくて」
「まだはっきりしないからな」
家康が閉まった襖を見ながら小声で言えば、秀吉は「不用意に怖がらせる必要はないだろ?」と答えた
「何かありましたか?」
三成に、馬の件を聞かせれば、彼の眉がぴくりと動く
「さようで・・・ございましたか・・・」
「・・・お前の用件はなんだ?」
「はっ・・・大山の件ですが・・・」
三成の報告はこうだ
商家には犬が居ない事
大山が仕事の事で二週間ほど前、一時商家を離れていたこと
その後、戻った時はえらく獣くさかったと家の奉公人が漏らしていたと
「失礼します、政宗です」