第21章 一線を越えた男
にっこり微笑むと、其処からはいつものように馬たちの体調やら聞いていく
「あれ・・この子・・・」
よく見れば、厩舎にいる一頭が耳を後ろに倒したり、前に向けたりせわしなく動かしている馬がいる
「あぁ、そいつ今朝の歩行帰りから少し様子がおかしいんです」
「ちょっと・・・出してもいい?」
(様子がおかしい・・・足がふらついてる)
「危ないですよ」
制されながらも、馬を外へ出すとやはりふらふら歩いて時折膝つくのだ
かと思えば、ぶんと手綱を引っ張る
「わっ・・・」
「湖さんっ!!」
横から手綱を取る若者に助けられ、どうにか身体を振られずに立っていれば遠くから声が聞えた
「っ湖!!」
「・・・・・・」
(この子・・・)
秀吉が御殿から厩舎へ出てくれば、湖が馬に振り回されているのだ
驚いてその場に駆け寄っていった
「秀吉様っ、申し訳ありません」
「大丈夫か?!」
「・・・・・」
「湖っ!」
手綱は若者に預けられ、秀吉は湖の正面にくるとその顔を覗く
だが、湖は何か困惑しているかのように目を合わせようとしないのだ
そして、馬が入っていた柵の中に入ると地べたを探り始める
「おい、湖・・・」
(あ、・・・あった・・)
「馬酔木(あせび)の花・・・」
湖がそれを口に出せば「馬鹿な」と厩舎の若者達が駆け寄って、湖の見て居る方を見て絶句するのだ
其処には確かに、小さな実のような花が一つだけ落ちていた
「なんだ?何があった?」
「・・・この馬、馬酔木の葉を食べたみたい・・・」
本来は早春、スズランのような花を咲かせる馬酔木(アセビ)
馬酔木の葉には、その名の通り馬が酔ったような状態になる毒がある
足が痺れて動けなるのだ
犬や牛などもちろん人にも有害だ
湖が拾ったのは、その一粒だけの花だけ
厩舎には必ず人がいる
馬が、厩舎でその花を食べることはないのだ
四人は青ざめ秀吉に頭を下げている中、湖は馬の様子を見始める
そして
「大丈夫。たぶん、少量しか食べてないから少し時間を置けば大丈夫だよ」
うんと、自分自身に言い聞かすようにし馬のたてがみを軽く撫でるのだ