第21章 一線を越えた男
長い髪が畳に付き、髪飾りの鈴がちりりんと鳴る
その場にいた三人の武将はその姿に一瞬息をひそめた
「ほぅ・・・この半年でずいぶん姫らしくなったものだな」
「同感・・・だ。こうしてみるとずいぶんしおらしく見える・・・」
「そろそろ兄役も卒業じゃないか、秀吉」
「え・・・あの、そうではなく。私は、信長様にっ・・・」
続きを言おうと顔を上げれば、いつの間にか信長が自分のすぐ正面で片膝を付き見下ろしていた
「っ信長さま・・・?!」
そのまま流れるような動作で、湖の顎をすくうと・・・
「ならば、どのように巻き添えにしたのか。再現してみるか・・・」
そう近づいてくるのだ
(キスされる・・っ?!)
湖は、驚いて近づいてくる信長の口元に両手を添えるとめいっぱい腕を伸ばす
逃げるか、顔を背けるか・・・そう思っては居たが、まさか自分に対してそのような行動を取られると思っていなかった信長は、口元に添えられている手を外すと
「貴様・・」
と眉をひそめる
横で見ていた光秀は、その光景に目を見開いた後、くくっと面白いものを見たと笑い続けている
秀吉は「お、おい、湖っ!!」と少々困惑ぎみだ
「け、けっこうですっ!!とにかくっ、危ないものだと解ってて、ご自分から受け取りに行くなんてことっ、やめてくださいねっ!!私は、部屋に戻りますっ!!」
湖は、勢いよくその場に立ち上がると顔を真っ赤に染め早口で言いたいことだけ言い切り部屋を出て行った
いや、逃げて出た
ぱたぱたと走り去る音と共に、信長は元の位置へ
秀吉は「やはり、そうゆうことだったか・・・」とため息を零す
「去ったことだ。もう何の支障もない。これで、あやつも気負う必要はないだろう」
不敵な笑みを浮かべる信長に、光秀と秀吉は無言で一礼をした
「失礼します」
「三成か?」
「秀吉様・・・皆様、おそろいでしたか」
襖が開くと、三成の他に家康、少し遅れて政宗がやってくる
「湖のやつ・・・どうしたんだ?」
政宗は、廊下の方を見ながら入ってくる
「どうせ、信長様か光秀さんのどちらかにからかわれたんでしょ・・・」
政宗の呟きに家康がため息混じりに答えれば、光秀が「心外だな」と笑って見せるのだ
信長は、三成の方を見ると息をつく
「油問屋の事か」