第21章 一線を越えた男
湖の話を聞くと、三成の声色が少しだけ低くなる
だが、湖はそれには気づかなかった
「顔色が悪かった?」
「うん。あのときは、きっと信長さまの提案に青ざめたんだと思ったの。いろんな人が意見交換してたけど、彼だけあんまり言葉を発してないようだったから…でも、あんなことがあって…」
あんな事とは、あの飴の件だと三成は相槌をうった
「私、てっきりあの人があの飴の人「庄内屋さん」だと思い込んでた・・・「大山屋さん」て、言うんだね・・・あの人、お父さんが同じように毒で亡くしたから、姫が気がかりだって。だから、いくつ飴を食べたのか?とか詳しく知りたそうだった。あの人がどうかしたの?」
「・・・いえ、少し気がかりで・・・湖様が、姫だと大山殿は知らないんですね」
「うん、気づいていないと思うよ」
しばらくそのまま店先を見ているが、特に変わりは無く客の出入りがあるだけだ
「彼の話が、少々気になりまして。おつきあい、させてしまって申し訳ありません」
「そう、だよね。あの人のお父さんも同じ飴の毒で亡くなったんだもの・・・」
湖は歯切れ悪く返答したが、三成が気がかりだったのはそれとは別の事
三成は、窓を閉めると「寒いですね。食べ終えたら、少しだけ馬で散歩してもどりましょうか」と、微笑んだ
「そういえば・・・犬、居ないね?犬って皆、お庭で飼ったりするの?それとも家の中?」
「どうでしょうか?急にどうされたんですか?」
「あの人、犬の匂いがしたから。お香の香りと重なって解りづらいけど、私、そう言うお仕事してたから気づいちゃうの。あの人、犬飼ってると思うの」
(この時代の飼い犬って、座敷犬いるのかな・・・それとも番犬みたいな役目で飼うのかな?)
純粋な疑問を持って口に出たことだったが、三成はしばらく無言になってしまった
(あ・・・三成くん、動物に興味がないって・・・そう言えば、秀吉さんが言ってた・・・困らせちゃったかな?)
どうしようかな・・・そう思いつつも、お汁粉を食べ終わらせると、湖は三成に声を掛けた
「美味しかったです、ごちそうさまでした。もう暗くなってくるし・・・寒くなってくるから戻ろう、三成くん」
「・・・はい、そうですね」
そう言われると、三成はいつも通りの微笑みで立ち上がると城へ戻ったのだ