第21章 一線を越えた男
いつの間にか目の前にいた三成に驚きながらも、湖は横に頭を振ってそれを否定する
「違うの・・・「飴売り」って言葉が聞えて・・・ごめんね、立ち聞きするつもりでは、なくって・・・私、本当に迷惑掛けちゃったな・・・て・・・ごめんね」
微笑んではいるものの表情がさえない湖に対し、三成はその頬に両手を添えて自分の方を向かせる
「家康様から伺いました。湖様が毒の一つを探り当てたと・・・いち早く解毒剤が出来たのは湖様の言葉があってだと仰っていました。湖様は、信長様を救われたのです」
「三成くん」
「ご自分を責められないように」
「・・・うん・・・ありがと。三成くん、仕事だよね?散歩、今度にしよう。また誘ってくれる?」
三成は「すみません」と言うと簡単に内容を教えてくれた
飴売りを知っているという商人が城に来ていると
三成は彼の話を聞きに行くのだという
「ありがとう、教えてくれて。三成くん、行ってきて」
その頃、秀吉と信長は光秀から連絡のあった城下近隣の村に居た
城からさほど離れていない場所
一刻も馬を走らせればつく小さな村だった
暗いその場所はじめじめして、鼻を摘まみたい匂いが充満していた
「・・・どうなっている?」
「っ、ひどいな」
顔をしかめる秀吉の正面にいる光秀が開く
「まさか、信長様も来られるとは思っていませんでした」
「説明しろ、光秀」
「はっ、この男はこの村の住人です。最近、野犬駆除をした浪人の手伝いをしていたとのこと。野犬が駆除され男が去ったのが二週間ほど前のこと出そうです。この男が見つかったのが今朝早くのこと」
「待て、光秀。この男の腐敗からするに、もう死んでから相当経ってるぞ・・・今まで見つからなかったのか?」
光秀の報告を遮るように秀吉が口を挟むと・・・
「おそらく・・・二週間ほどは経つ。刀傷が首元にあるがこれでは死なんだろう・・・動物に襲われたようだな」
男の骸を見下ろし、信長がその場を翻す
其処は、村から少し離れた森の中
大きな岩の間だ
まるで洞窟の入り口のような所に男は放置されていた
「・・・それにしても、獣くさくないか・・」
「だろうな、そこらに動物の毛や糞が落ちているからな」
秀吉と光秀もまた、信長に続き出口へと引き返していく