第21章 一線を越えた男
庄内屋の話を聞けば、彼は最近馴店に出入りしていた駆け出しの商飴売りから仕入れたものだと解った
金平糖が高価なこの時代、あのように飾り飴は更に高価である
それが、毒であったと話せば、彼は真っ白になって額をすり寄せ詫び続けるだけだった
これ以上話を聞いて居ても無駄だと信長は彼を帰した
家臣に連れ出されるように出て行った庄内屋
残ったのは信長と光秀
そして・・・
「宗久、飴売りのことを知っているか」
別の襖が開き姿を現したのは、信長馴染みの商、今井 宗久(いまい そうきゅう)だ
紫のずきんを被った男は顔を上げると「そうですね・・・」と声を出す
「噂は聞いております。その男、昔は大きな商をしていた家に出入りし・・まぁ、用心棒のような仕事をしていたと聞いております。ですが、その家は、国で失態を興して裁きになりました」
「接触は可能か?」
「・・・どうでしょう・・・光秀様なら既にご存じだと思われますが・・・最近毒殺された大名の件に、おそらく彼はかかわっております。それと合わせて気になるのが・・・」
「・・・犬の件・・・だな」
光秀と宗久が言葉を交わす中、信長が「犬」のワードに耳を動かす
「犬だと?」
「は。その男の仕業かどうかは定かではありませんが、同時期に周辺の村から犬がおそらく数頭居なくなっています」
光秀が返答をする
「おそらくとは、なんだ?」
「野犬だからですよ。田畑を荒らしていた犬が駆除されたと村人は喜んでおります。しかも金を出さずに引き受けた奇特な武士が居たようで、感謝すれども苦言はない。なので、犬が何頭居たのか、駆除した犬がどうされたのかも不明なのです」
宗久がその理由を説明した
「なるほどな・・・で、どうして気がかりだと」
「毒殺された大名の家臣の一人が、犬に襲われ死亡していました。それも一頭じゃない。おそらく数頭に食われるような遺体であったと」
「そうか」
「信長様、何か気になることかありましたか?」
光秀が表情の見えない信長に質問を返した
「・・・杞憂だ」
「それは・・・そうですか、申し訳ございません」
信長の返答に光秀は頭を下げた
宗久は「それはそうと・・・」と、巾着から懐紙を取り出し信長の前に差し出す