第21章 一線を越えた男
そう言いながら、自分の胸に手を置く
「でも・・・吐き気と・・・手足の痺れ・・・」
「吐き気があるのですか?」
三成に背中を支えられた湖が軽く頷く
「前に・・・カエルの毒を舐めた犬の治療をしたの・・・その時読んだ本・・・吐き気や痺れがあるって・・・っぐっ」
続けて離そうとしていた湖が口元に両手を運んでくる
政宗は近くにあった手桶を湖の口元に運び「大丈夫だ」と声を掛けた
その袖口を掴むと湖は
「の、のぶ、ながさまは?」
と苦しい顔をしたまま尋ねる
「・・・大丈夫ですよ、湖様。信長様は少量しか摂取されず、問題ありません」
三成はそう言うと、政宗と目線を交わす
確かに信長は普段と変わらず過ごしてはいる
だが、実際は湖と同じ症状だ
それを彼は表に出さないだけなのだ
だから今日は、家康が信長について歩いているのだ
げほげほと、湖が苦しそうにするのを三成はその背をさするしかなかった
(・・嘘だ・・・私と信長さまが摂取した量はほとんど変わらない・・・なら、はやく解毒しなきゃ・・・)
「まさむ、ね・・・家康に・・・ヒキガエル・・・うっ・・んん、」
言葉を詰まらせると、湖は桶に顔を向け息苦しさが増したかのように肩を上下させる
「解った。すぐに伝える」
政宗は、三成に湖を任せると足早に部屋を出て行った
「湖様、大丈夫ですよ。家康様が直ぐに直してくださいます」
背中を摩る手が温かい
湖は、コクコクと首を振ると三成に「ごめんね」と小さく呟いた
「湖が・・・解りました。すぐに調べて解毒薬調合します」
家康は秀吉に一礼すれば、薬草などが置かれる医務室へと急ぎ向かうのだった
その背を確認し、政宗の視線は信長へと移る
彼はその視線に気づくと
「なんだ」
といつも通り返すのだ
ただその目にはいつも通りの覇気は見えず、どこか遠くに居るように思えた
「・・・湖が目を覚ましました。御館様を心配しています」
「そうか・・・では、支障ないと伝えておけ」
「は・・・」
一礼した政宗とすれ違いながら光秀が信長の居る部屋へと足を踏み入れる
そして周りに秀吉しか居ない事を確認すると、信長の前に座り一礼した