第21章 一線を越えた男
湖の部屋には、馴染みの女中と三成の姿がある
「就寝前は特に・・その後、何度か様子を見に来てはいたのですが・・・」
心配そうに顔をゆがめた女中に三成は「解りました」と言い、彼女を下がらせた
湖は、少しうなされながら首を振った
「湖様・・・」
三成はその様子に眉を寄せ、熱い頬に指を滑らせたのだ
「ん・・・」
気だるい・・・空気が重い・・・
ここはどこ?
暗いじめじめした雰囲気の場所
だが・・・
(なんだか・・・ちょっと変・・・)
温度や匂いを感じない
ただ音は聞えた
(これは・・・犬・・・?)
それは、けたたましく吠える犬の声
現れた犬は口の周りを酷く気にして前足で擦り、胃の中にあるすべて物を吐き出すのだ
(この子・・・知ってる・・・私が治療した犬・・・飼い主に置き去りにされて・・・)
「っふ・・っ」
湖が、首を左右に大きく振り始め胸の辺りを押さえ始めた
三成は焦る気持ちを抑え、落ち着かせようと湖を抱えその名前を呼ぶ
「っ、湖様、湖様」
「三成・・・?っ、どうした?!」
襖の外に漏れた声に、訪れようとしていた政宗が部屋に入ってきた
そして湖の様子を見ると軽く舌打ちする
絹音を上げながら急ぎ駆け寄ると、三成に抱えられた湖の頬を軽く叩く
ぺちぺちっ
「湖、おい!起きろっ」
「湖様!」
荒い息を吐きながら、薄らとそのまぶたを上げた湖
先ほどのうなり声は止み、今は熱による荒い息が上がっている
そして、少しぼやける視界には入った三成と政宗を交互に見上げた
「・・み、つなりくん・・まさ、むね・・・?」
「っ、良かった。目を覚まされましたね、湖様」
「どうした?・・・怖い夢でもみたか?」
三成と政宗に声を掛けられ、少し間を置くように湖の視線が下がる
そして、再度見上げると
「熱・・息苦しさ・・・昨日、家康に聞いた阿片の症状と同じ・・・」