第21章 一線を越えた男
「湖はどうだ」
「薬湯を飲ませて様子を見ています。信長様も、これを飲んでおいてください」
そう差し出したのは、盆の上に置かれた茶器
薬湯だ
「・・・同じ事を言わせつもりか」
「毒の解明の為に、症状を教えてください・・・湖は、昏睡・発熱・動悸の症状がありました。同様の変化を感じますか?」
すると、含み笑いをした信長がようやく家康を見返す
家康はまっすぐに信長を見たままだ
「なるほどな。解毒薬の為・・・か・・・なら、仕方あるまい・・・倦怠感、発熱、軽い目眩・・・そのくらいだ」
「・・・やはり、阿片の症状と動揺ですね」
「あぁ。だが、あれだけの量でこんな症状は起きまい」
ぱさりと、持っていた本を置くと家康から茶器を受け取り飲み干す
「あの飴の送り主は解ったのか」
「怪しい人物は数人に絞り込めました。明日朝、早々に動きます」
家康が部屋から去れば、信長は気だるい腕を下げた
(毒など・・・いつ以来だ・・・)
「失礼します、秀吉です!」
バタバタと歩いてきただろうその人の足音にも気づくのが遅れると、いよいよ自分の身体にも症状が増してきたかと、信長は苦笑する
「入れ」
「っ、御館様!家康から知らせがあり参上しました!お身体は・・・」
「家康の持ってきた薬湯飲んだ・・・貴様は、相変わらず慌ただしいな」
結局、信長は秀吉監視のもと無理矢理休まされることになった
だが、翌日には何事もなかったように政務を行う
「信長様」
「説明したはずだ。湖については話を広げろ。だが、俺は毒の摂取をしてはいない・・・いいな」
「・・・間違い無く信長様を狙ってきたと思われます。狙いがはずれたと思わせるためですか?」
秀吉の後ろに控えた三成が尋ねれば、信長は扇を打つ
「送り主が解らん以上、次に仕掛けてくるのを待たねばならん」
「さようでございますね・・・仕掛けてきたところを捕獲するのですね・・・」
「幸いにも、今日も商人達を招いているからな」
三成が無言で頷けば、秀吉は苦言を堪え眉をしかめる
「・・猿、補佐をせよ」
「っは」