第21章 一線を越えた男
しばらくは三成と過ごした湖
しかし、その様子は夜まで変わらず
湖自身も少し気が落着き自室で寝ていた
だが、その日の夜更け
二人は高熱を出すことになった
「っん・・・っ・・・」
うなされるように、羽織を握り眠る湖
その部屋の襖が開かれた
どこか重たげな足運びのその人は、褥の横に膝をつけ湖の額に手を当てた
「・・・貴様もか」
と、気だるそうな声
衣擦れの音をたてながら、湖の寝る褥の横に胡座を掻いて座り、その髪の毛の一房を掴み指で遊ぶ
「取り除いて正解だったな」
平然と見える彼の額に薄ら汗がにじみ出ていた
「・・・急にどうしたんです・・・っ、湖・・」
読みふけっていた本を置き、急に立ち上がり歩き出した信長の後から追ってきたのは家康だ
湖の様子に気づくと、額に手を当てその熱を知った
同時に、着物越しに触れた信長の身体も火照っているのに気づく
「っ・・」
その視線に気づいた信長は、いつも通りの表情を見せた
「支障ない。湖を看ろ」
信長が立ち上がろうとするのを見た家康は、その手を掴んだ
「・・・なんだ」
「っなんだ・・・じゃないです。あんたも熱が・・・支障ないわけないだろ」
普段とは異なる物言い
だが、幼い頃から知っている仲の二人だから時折こうゆう場面がある
信長が家康のからかうように幼少期を話し出したりすれば時折
だが、今回はからかいなどではない
信長の異変に動揺を見せたのだ
「・・・支障ないと、言ったのが聞えなかったか?家康」
「俺には支障無いようには見えません・・・大人しく横になってください」
「・・・貴様、いつから俺に指図するようになった」
「っ・・・」
その手を離せば、信長は平然と歩き出した
「・・・くそ・・」
家康は憤りを感じながら去った彼の方を向き呟くと、一息ついてすぐに湖を看る
高熱に荒い息、揺すっても起きない所を看れば昏睡も疑われる
どれも阿片の副作用症状ではあるが、たかがあれだけの量でこんなはずはない
(阿片の他に何か・・・)
女中を呼び湖について指示を出すと、御殿医に薬を指示した
同時に、秀吉に使いを出し状況の報告も
一通りの指示を出し終え、天主に戻れば信長はいつもの定位置で本を片手に座っていた