第21章 一線を越えた男
「・・・すみません・・・」
湖は一言だけ呟き、彼の着物を握った
(口の中に、まだあの甘さが残ってる・・・)
自分の舌で口内を探れば、親知らずの辺りにまだ少しだけ固まりが張り付いているのに気づいた
「あ・・・」
湖の様子に信長が気づき尋ねれば、まだ口の中に溶け残った飴があると知らされる
「・・・湖、口を開けてみろ」
「へ・・あ、はい」
そして、大きく口を開ければ其処を見ようとする信長
「え、信長さま・・ちょっと、恥ずかしいですっ」
「・・・貴様、毒と恥とどっちを選ぶんだ・・」
「わ、わかってますけど・・っ」
ふぅと、息を吐くと信長は口内をのぞき見ようとしていた様子と違い一度湖を黙って見た
「・・・え・・」
そして、柔らかく温かな感触が唇に当たる
目を開いたまま、思考が停止してしまった湖
「あ・・、ん・・・っ」
ぴちゃ・・
信長は、湖を見た後
その唇を捕らえると、薄く開いていた入り口に舌を差し込んだ
(甘い・・な・・・)
それは、飴のせいなのか、湖のせいなのか
ぐるりと口内を探ると、ひときわ甘みを感じる部分を舌先で触れる
「ふぅ、んっ・・!」
そうしているうちに、思考が動き出したのか湖が離れようと抵抗を始めた
軽く後頭部を支え、逃げられないようにすると、湖の歯についた飴を舌先で剥がし攫った
ちゅう・・
軽いリップ音を立て、お互いの唇が離れれば、湖は真っ赤になったままパクパクと口を開けたり閉じたり
言葉が出てこない
そんな様子を見せる
信長はそんな湖を見ているが、特に様子に変わりはない
ただ、ぺろりと自分の唇をなめとれば・・・
「味は金平糖と変わりないか・・いや・・少し、酸味があるようだが・・・これだけでは解らんな」
「な・・っ、な・・」
「なんだ、なにか言いたいことがあるのか」
そう信長が言ったとき、部屋の外から声が掛かり入ってきたのは、先ほど出て行った秀吉と家康だ
「湖、家康に看てもら・・・湖?」
口元を押さえて真っ赤になっている湖に気づくと秀吉は不審な表情を見せた
湖は、入ってきた二人に気づくと信長を指さす
「の、・・信長、さま・・・」