第21章 一線を越えた男
「信長様、それに湖も。毒味もせずに、何を持って行こうとしてるんですか?!一度、すべて預かります。そして、問題無ければ少しずつ差し上げます!さ、全部お渡しください」
秀吉だ
当たり前のように、金平糖をすべて取られるが、信長は舌打ちしながらも一瓶だけ懐にしまい込んだ
湖もまたそれに気づき、自分が気に入った兎模様の包みの物を懐にしまい隠したのだ
「・・・猿め・・」
「何か、仰いましたか・・・信長様」
部屋に戻ると湖はすぐにいつもの着物に着替えた
そして、こっそり持ち帰った包みを取り出す
それは本当に可愛らしく、湖は開ける気にならなかった
もともと開ける気は無かったのだ
「可愛いな」
つんつんと、指でつつく
白い包みに、桜色の兎が数匹描かれた包み紙
手の平に収まる程度の大きさで、振ればカラカラと金平糖の転がる音がする
最も、白い包みは表面をくるんと包んだ物で、側面は箱の赤が見えている
その赤と白のコントラストも、湖の心をくすぐるポイントだ
「この赤い箱も綺麗な色だもの・・・あ・・あれ?」
くんと、鼻を近づける
すると甘いお香の匂いに気づいた湖は、破かないように包みをそっとはがして、赤い箱の中を見た
其処には、金平糖より大きな物が
「・・・っかわいい」
べっ甲色と、桜色の兎の形をした飴細工が三つ
その小さな箱に収まっていたのだ
それと粉々になった飴のかけらも
「もったいないっ、私が箱を振ったせいかな・・・こんなに綺麗なのに・・・しかも、珍しいよねっこれ・・・いけないっ、信長さまに帰さなきゃ」
だが、粉々になったかけらをそのままにするわけにもいかず、湖は一度壊れていない飴細工を懐紙に乗せ、箱を揺すり割れた飴のかけらを別の懐紙に乗せた
そして、3匹の兎を元に戻すと丁寧に包み紙も戻す
(これで良しっ、気に入ってたんだけど・・・こんな立派な贈り物、信長さまにちゃんと渡さないとね・・・でも、これはいいよね?)
指先に、割れた飴をちょんと付けパクリと口の中に入れれば、甘い味が口内に広がった
「んんーー、美味しい」