第21章 一線を越えた男
「・・・どうしたんだ?」
「あ、いやっ、なんでもない」
「・・・そうか?で、湖は・・・まだ起きてないのか」
政宗が見れば、秀吉の手が置かれた布団側から湖の片足が除き見えた
「・・・なるほどな」
「・・・」
「湖の寝相が悪いのは知ってるだろう?頭だと思ってめくったが違ったか」
そう、秀吉が頭だと思い込んだ方にあったのは足
しかも丸まっている状態
寝相の悪い湖の寝衣は見事に着崩れ、真っ白な足が剥き出しになって現れたのだ
「・・・湖には黙っといてくれ」
「・・・よし。なら、近々家康と三成の勝負な」
「はぁ?」
脈絡のない話に秀吉が声を上げた
「ただの暇つぶしだ。最近戦もなくて暇をしていたところだ。ふと思い立ってな」
「あの二人の何の勝負だ?」
「剣術だ。二人とも戦法が異なるのも面白いが、あの奇特な関係も愉快だろう。まぁ、なにかの機会があれば口裏を合わせて勝負に持ち込もうってだけだ」
「・・・家康が三成と仲良くする切っ掛けになるかもな・・・」
やがて、二人の声に起こされたかのように夜着がむくりと起き上がった
「・・・まさむねぇ・・・ひーよしさん???」
「やっと起きたか?ねぼすけ」
「湖、お前・・・どうしてそんなに動き回って眠れるんだ・・・」
「ふぁ、・・・おはようございます・・・」
寝ぼけままに小首を傾げ笑う湖に、二人はため息をつくのだった
小雪が降り始めるのではないかと冷え込んできたこの時期
信長は安土での商を、関所の撤廃や外国からの輸入、とにかく城下が盛んになるようにと様々試行させていく中で開かれることになった商人を集めた茶会
それに、湖も同席する事になっていた
朝餉を済ませ、早々に着物の準備に掛かる
着替えのために、部屋からでた秀吉と襖越しの会話
「起きないから焦ることになるんだぞ」
「最近、寒いんだもんっ!でも、言い訳です!すみません!!」
まるで上司に詫びるように、湖は急ぎ着物に袖を通す
その間、秀吉は部屋の外から小言を続けていた
シュっ
襖の開く音に中を見れば、湖がほぼ着物を羽織った状態で秀吉を招き入れる
「中に入ってください。外寒いですよねっ、すみません」