第20章 私が猫で、猫が私 (裏:安土組全員)
「好き」信長に向けて、その言葉を出したのは初めてだ
今まで自分の気持ちがはっきりとは出せなかった
信長のことは好きだ
それは、湖にだって解っている
そうで無ければ、黙って抱かれていたりしない
怖い そんな印象だった信長を思いはじめたのは、いつだっただろうか?
自分を「主」だと言い切ることの男
横暴だと思っていた自分が、いつからかそれは彼なりの独占欲なのかもしれない
そう思いはじめたのは、いつだろうか?
一見無表情な彼の表情を読み取れるようになってきたのは、いつだろうか?
はっきりしない
でも、確かに湖の中で信長の存在は大きく愛おしいものになっていった
そして、同時に困惑した
もとより、自分はこの時代の人間ではない
さらに、彼は今この時代の覇者だ
釣り合うはずがない
だから、「好き」だと言ってはいけないのだ
言葉には出さないかわりに、彼の求めには応じたい
そう決めていた
(でも…伝えたいときに伝えられない…そんなのは辛すぎだった…なら…)
「好き・・・信長さまが、好きです」
涙ながらに、自分を見つめそう言い切った湖に信長の口角が上がる
「やっと口を割ったか」
そして満足そうに目を細めた
観察力の鋭い彼に隠せるわけがない
だが、自分が口に出さなければ、わざわざ突いてもこないであろう
そう思っていた湖は正しかった
(やっぱり・・・お見通しだな)
「はい」
「だが、ずいぶんと待たされた・・・理由を聞かせろ」
顎に手を掛けられ、理由をと言われるがどう説明していいのか言葉が出ない
すると、信長は軽くため息を付き言った
「貴様の事だから、産まれた刻が違うだの、身分だの考えたのであろうが、俺がそんな事を気にする輩だと思われたのなら・・・それは処罰せねばならんな」
「っ・・」
「やはりか」
瞳が揺れたのを見逃さず、信長が続ける
「俺はいずれ、この国を統一する。そんな小さな事など気に病む必要はない」
はっきりとそう言った
「小さい事ですか・・」
「そうだ」
「産まれた刻が違う事も?」
「そう言った」
「姫ではないのですよ」
「そんな物は問題にもならない」
「・・・そうですか」
「そうだ」
潤んだ目が細められる
そして、綺麗に笑った表情の湖から最後に一筋の涙がこぼれ落ちた
「そうですね」