第20章 私が猫で、猫が私 (裏:安土組全員)
やがて、二人は先ほどの部屋に戻る
湖は、信長が出した筆などの道具箱を元に戻すと、頭の上から羽織が引き取られた
振り向けば、信長がその場に肩肘を着いた体制で寝転び、空いた手で湖に羽織らせた羽織を引いたのだと解った
シュル・・・
絹の掠る音がする
そして、湖の姿が鮮明になった
陽の当たる室内で、湖の頭上にあるのは猫の耳
いや、鈴の耳だ
茶色い髪の上に、煤色の耳がぴくりと動いている
「信長さま・・・」
「なんだ」
「あの、・・・すみません・・・」
少しの沈黙ののち、湖が言葉を続ける
「ご迷惑おかけしています・・・その、もし・・」
「なんだ。続けろ」
「・・・もし、数日で私のこれらが元に戻らなければ・・・お先に戻ってくださいね・・・」
戻るとは城へと言うことだとは解る
「なんで、俺が貴様を置いて帰る必要がある?」
「・・っ、でも、私・・・猫から戻るのにすごく時間が掛かってしまって」
そう言うと顔を伏せる湖
だが、横になっていた信長には少しその表情は見える
唇を横に引き、何かを言い淀むようにする表情
「最後まで話せ、湖」
そう言ってやれば、湖の目がかすかに潤む
「はい・・・。私、元に戻れるんでしょうか・・・本当は、不安で仕方なかったんです・・・あのままになるんじゃないかって・・・私は、このまま猫のままで・・・もう、信長さまとは・・」
ぽたんと、落ちる水音
視界が潤み涙を止められずにいれば、前に寝転ぶ彼が動く気配を感じた
「・・信長さま?」
顔を上げようとすると、湖の身体が引かれ温かな体温にその身を包まれた
「俺となんだ?」
抱きしめられている
片膝を立て、反対の折れた片膝に乗せられて信長の方へと身を引かれていた
その彼の着物をきゅうと握ると湖は続ける
「信長さまに・・・もうこんな風に抱きしめてもらえないかも・・・と、そう思ってしまいました」
楽観的に大丈夫だと思っていた数日
日に日に戻る気配すらなく、不安が募っていくように
時折、猫の姿の自分を攫っていく信長の体温が嬉しく感じ
同時に、もう人として触れ合う事は出来ないのではないかと悲しくなったのだ
「・・・信長さま」
「あぁ」
「私は・・・信長さまが好きです」