第20章 私が猫で、猫が私 (裏:安土組全員)
そして、湖は猫らしくない猫だった
人の言葉を当たり前のように理解し、鈴の面倒を見て回る
まるで母猫だ
そして、鈴が身体を休めているときは自分も猫同様丸まって休む
ほぼ鈴から離れずに過ごしていた
時折、鈴から引き離し湖を構っていても、心配なのかすぐに離れようとする
(そう言えば・・・湯浴みの時間だけは離れていたな)
くくっと声が漏れれば、湖の振り向く気配を感じる
「どうか、されましたか?」
「・・・少し駆けるぞ」
返答を避けるように、馬を急に走らせ始めた信長
湖は、急に上がった速度に対応するかのように姿勢を戻した
(そうだ・・・こやつは、馬に乗れるのだったな・・・)
普段はそんな事をしそうにない湖
動物の扱いは見事で、馬もそこらの兵より巧みに乗りこなす
今だって信長が補助をしなくても、自分でバランスを取っていた
(近いうちに、鷹狩りにでも連れて行くか・・・)
そんなことを考えている合間に、目的の場所に着く
其処は、信長と家康の知人の別宅だ
とはいえ、普段人の気配はない
この主は、特別な要の為にこのような別宅を数軒所持して居た
管理は近隣の者に手配をし、常に綺麗にされている
この家を利用するのには決まりがある
馬から降りると、信長は馬をつなぎに向かった
湖は、入り口から家をのぞき見た
(誰のおうちかな・・・)
「なにしている。入るぞ」
「はい」
信長について入れば、その家は小さく質素ではあるが、綺麗に手入れされていた
庭もしっかり手入れが行き届いている
だが、人の気配がしないのだ
不思議に思って、信長に聞けば「別宅」だと説明された
彼はそのまま物置から紙と筆を取り出すと、さらさらと何かを書き、大股で玄関の方へとまた歩き出す
湖も、そのあとを早歩きで着いていけば
草履を履いた信長が、玄関先の木に先ほどなにやら書き込んだ文のような物を結んでいた
(何かな・・・?)
その視線に気づくまでもなく、信長は「気にするな。これは合図だ」と答えてくれた