第20章 私が猫で、猫が私 (裏:安土組全員)
他は去った
一部髪を引かれる思いの者も居たが、それでももう去った
「あの・・・」
そして、ようやく湖の口が開いた
「不満か?」
「い、いいえ!全くっ!・・・でも、本当に良かったんですか?」
「・・・良い悪いもない。俺が残らねば、貴様は誰を側に置くつもりだったんだ」
「へ・・・」
信長は、馬に軽やかに跨がると同時に湖の片腕を引き、彼女を馬上に持ち上げた
「ひとまず、今夜身を置ける場所を探す」
「あ、はいっ」
(び・・・びっくりした・・・信長さまがそんな事いうと思ってなかった・・・)
ちらりと、自分を後ろで支える信長の顔を伺う
するとちらりと目があう
信長は自分の羽織を脱ぐと、湖の頭からかぶせた
「被っていろ」
「あ、ありがとうございます」
羽織で見えない信長の表情を気にしながらも、湖はそれに礼を言い前を向いた
信長はそれを確認し、馬の手綱をひく
(・・・確かこの辺りに、あやつの家があったな)
思う方向へ馬を向け進む
(鈴との時間は楽しめた。湖に出会った際には、もう一つの存在として湖と鈴が居たからな・・・ある意味新鮮であった・・・)
静かな湖の背の体温を感じながら、信長はここ最近の事を思い起こしていた
約二週間ほどの時間は思いの外長かった
当初数日で戻るであろうと踏んでいたが、その気配はなく
結果として今日に至る
その間、湖は鈴の身体に、鈴は湖の身体で湖の妹として城内に住まわせた
もくろみは、何の問題もなく
鈴は直ぐに城の者に認知され、湖とは違うその性格に、違った意味で城の空気を柔らかくしていた
(いや・・・過保護になったというべきか・・・あれはまるで全員が乳母のような追いかけぶりだった)
そして自身も、鈴に対しては湖とは違う意味で目が離せずにいた
年の離れた妹を見守るように
鈴は日に日に人らしく振る舞った
もともとの性分か、何事も楽しく遊びにしてしまう
(猫だからだろうが・・・)
考えもしないような事が毎日起こり退屈しない