第20章 私が猫で、猫が私 (裏:安土組全員)
あの時・・・
(俺の名前を聞いたとき、柄にもなく喜んだ・・・それに気づかれないように気をつけたけど・・信長様の笑い方、あれは絶対面白がってるな・・・戻ったときに何を言われるかと思うと面倒でならない・・・)
家康が先ほどから無口になるのは、帰ってからの面倒事のせいだ
それを湖は、どうやら自分のせいだと思っているようで・・・
まぁ、根本は湖だが、悩んでいる理由は其処ではない
むしろ、久しぶりに湖と二人になれて密かに喜んでいるのだ
「えっと・・・なら・・・ありがとう・・」
黙った家康の表情を湖は伺っていた
一瞬きつくなった眉だが、少しの沈黙の後元に戻った
そして、家康がいつも口には出さないが、自分の事を考えてくれているであろう時の表情に変わって、なんとなく不機嫌なわけではないのかも知れない
そう思って出した言葉だ
「・・・別に」
礼の言葉に対して、家康が返したのはいつもの言葉
湖は、気を抜いたかのようにその場に座り込んだ
家康はそれに驚き、湖の両腕を掴んでその身体を支えている
「なっ・・・」
家康に両腕を支えられた状態で、膝をつく湖はへらっと疲れたような笑みを浮かべ、彼を見上げた
「っよ、かった・・・」
「はぁ?」
成り立たない会話に家康はついていけない
「怒ってるんだと思って・・・どうしようって・・・」
(ッ・・・)
言われて気づく
湖は家康が思っているよりもずっと気まずく悩んでいたことに
(・・・さっさと否定してやればよかった)
零れそうで零れない涙を浮かべ、微笑む湖にドキリとしてしまう
両腕をそのまま捕まえたままで、家康もまた畳に膝を付くように座る
その動作の流れと一緒に、薄く開いた唇を塞いだ
軽く触れるだけの口づけ
湖は、目を丸くして家康を見ている
だが、その目が嬉しそうに細められれば二人は次にお互いを確かめるように深く口づけを交わしていった
ちりりん・・・
湖の髪の毛から髪飾りが落ち転がった
「あ・・・」
それに気づいた湖の意識が、髪飾りにうつる
家康もまた気づき、口づけを止めた
そして、それを手に取ると
「鈴には青が似合ってた・・・でも、あんたは赤だね」