第5章 歌声 (裏:政宗、家康、信長)
「・・・馬の扱いは教えたのか?」
「いいえ、湖様は乗馬も馬の扱いもできるからと申しておりました」
秀吉は、なにか考えるように世話係の話を聞いていた
「・・・しばらく様子をみたい。ほかの者には伝えず今まで通りにあいつと接してくれ」
「はっ」
秀吉に見られているのは知らず、湖は馬の様子を見終わると城の方へ帰って行く
石垣の階段を登る湖はご機嫌に歌を歌い始めていた
『ねていると おもったでしょ
ちがうよ ゆめをみていたの
すてきなゆめ
あなたと おはなしをしている ゆめ
わたしが にんげんになれたら
あなたは きづいてくれるかな ほほえんでくれるかな
とどくかな
とどけばいいな
とどいてほしい
いつか わたしの すきがとどくように
おなじときをすごす
そんな ゆめをみている
きょうも あなたの ひざのうえで』
(何の歌だ?)
聞いたこともない曲を、階段を登りながら口ずさむ湖
弾むようにかけるように・・・こどものように登っていく姿は、鈴のようにも見えた
見つからないよう後をついて行くと、途中家康に出くわした
「秀吉さん?何を…」
気配を消すわけではないが、音を立てないように静かにゆっくりと石垣を上る秀吉に、家康は眉をひそめる
その秀吉が、静かにと上を指すと湖の姿が目に入る
「あれは、何をしているんですか?」
階段をぽんぽんと、跳ねて上がっていく湖の声が聞こえる
『わたしの すきが あなたにとどくように
だいすきな あなたに つたえたい
わたしは いつもいっしょ
ひとに なれたら いいのに
いつか そのひが きますように』
小さいけど、優しい歌声
時折、湖の髪飾りの音がチリリンと聞こえた
「なんの歌だろうな。あいつらしい歌だけどな」
小さく笑いながら秀吉が言えば
「…変わった歌」
そう家康が答えた
「そうだな」