第20章 私が猫で、猫が私 (裏:安土組全員)
(参ったな・・・)
湖の頭についている耳は、時折ぴくぴくと動く
羽織からはみ出す尻尾をしまってやれば、「ん・・・」と小さな吐息を漏らす湖
(耳と尻尾を消す方法は理解したが・・・俺にそんな事できるかっ)
「・・・はぁ・・・」
(湖が俺を選んだのは、それが嫌だったからだろう・・・そりゃ、そうだ。そんな方法で元に戻る事を望む女なんて滅多に居ない・・・だろう・・・)
かと言って、別の方法があるのか?
秀吉は気持ちよさそうに眠る湖を見て、またため息を零す
(勘弁してくれ・・・湖は、俺にとって妹だ・・・その身体に手を出したら、かろうじて超えずにいる境界線を越えちまう・・・っ)
「っ・・・何考えてるんだ・・・境界線ってなんだ・・・っ」
自分の考えに、突っ込みをし褥から起き上がる秀吉
そして、外に出ると其処に落ちていた棒を拾い、素振りを始めた
その様子を見ていた人物が姿を現す
「・・・光秀か、城に一緒に戻らなかったのか」
さほど驚かずに、光秀を睨むように見る秀吉
「戻ったぞ。一度戻って、念のために様子を見に来たが・・・案の丈だな・・・」
「・・・なにがだ」
「解っていて聞くな、秀吉」
光秀が、何かを投げてよこす
秀吉は無意識にそれを受け取ると、手の平に収まった小さな瓶を見た
「・・・なんだ?これは?」
「媚薬だ」
「っ、そんなもんいるかっ!」
瓶を光秀の方に突き返すが、光秀はそれを受け取らない
「必要だろう・・・お前は、湖を妹だと可愛がっている。そんな湖に手を出すのは出来ないだろう?」
「当たり前だ。別の方法を探す・・・」
「あれば良いがな。この所、隣国の小競り合いも続いている。さっさと戻らねば、お前が居ない所で色々と動き始めるぞ」
「っ、光秀・・・」
飄々とした光秀に、秀吉はその胸ぐらを掴もうとする
「なんにせよ、湖にはさっさと城に戻って貰わねば困る。色々とな」
「・・・」
「それを使え、秀吉。湖に飲ませて、そうゆう状況を作ってしまえば良い」
「・・・簡単に言うな」
光秀は背を翻し、側に置いてある馬に寄っていく
「ではな、俺は戻るとする。監視役が居ないのは、なかなか動きやすい・・・」