第19章 私が猫で、猫が私
湖は、はっとした
鈴をもう一度みれば、自分の姿に代わりはないが頭には猫の耳が、着物の下には猫の尻尾が見える
そして自分は、手を顔に当てれば人の顔であることが解った
下を見れば、裸の身体が淡い光りを放っている
驚いて、しゃがむ湖に鈴は上の着物を脱いでかぶせた
着物を脱いだ鈴は中の胸当てと下履きの状態、カクテルドレスを着ているような格好に
湖は、鈴に掛けられた上羽織を腰紐で縛り留めた
心許ないが、隠したい部分は隠れる
身を包んだ湖はひとまず安心したが、この淡い光りはなんなのか
そして、着物を羽織って落ち着いたことで気づく
自分にも、猫の耳、尻尾が付いていることに
だが、不思議と驚かなかった
いや、不思議と落ち着いているという方がいい
「にんげんになれたら おなじときをすごせるのに」
鈴が歌の続きをせがむように歌った
それに湖が答える
『そんな ゆめをみている
きょうも あなたの ひざのうえで』
手を取り合って、二人はまた森の奧へと進む
裸足で歩く森、痛みは無い
まるで羽の上を歩いているようにふわふわと軽く進む二人
それを見た農夫が腰を抜かした
歌はだんだんと小さくなり、森の奥へと消えていった
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その少し前、付近の森で・・・
信長と、政宗、光秀の襲撃により拠点も仲間も失った山賊の残党が、鈴の落とした髪飾りを拾っていた
「頭、これ金になりそうですぜっ」
「いいからっさっさと安土を抜けろっ、ここはもう駄目だ!逃げるぞ!」
「さすがに、こんな森の奥までは追っては来ませんよっ!」
三人の残党が息を切らしながら、後ろを振り返る
すると、蹄の音が間近まで聞えた
「っ・・・!!」
ザッ・・・!!
姿を現したのは、黄色い着物の武士
「くっそ、しつこい奴・・・」
「・・・しつこくて悪かったね、残らず排除するように言われてるから・・・」
家康は、残党を含め周りを見回す
「残ったのは三人だけ?」
その温度の感じない目に頭と呼ばれた男は腰を引いた
そして、先ほど仲間が拾った髪飾りを家康につきだした