第19章 私が猫で、猫が私
「・・・きもちいい・・・」
ぽつぽつと、顔に当たる冷たい水滴
木々の間からさす光りの線
「湖、いこ」
『なぁ』
下を向くと、湖(猫)に話しかける
鈴(人)は、まるで行く場所を決めているかのように歩きだした
森の深くに進んだかと思えば、人が通るような街道近くも抜けていく
(鈴、何処に行くつもりなんだろう・・・信長さま達を探している様子はないけど・・・)
その様子に、湖(猫)はだんだん不安になっていく
それは、天気のように
ぽつぽつと降り出した雨は、時間を立つ毎に振り出しが強くなる
空はどんよりと黒ずみ、遠くで雷の鳴る音も聞えだした
『なぁ、なぁん!』
(鈴、鈴っ)
「大丈夫、湖、大丈夫」
そう言い、ずんずんと進む鈴(人)
何処かで引っかけたのか、髪留めが外れ、何も縛られていない髪が雨のしずくを滑らせる
やがて、街道の近くに来ると鈴(人)が小声で何かを呟きだした
「・・・・・」
(・・・鈴?)
良く聞けば、それは歌のよう・・・
「すてきなゆめ
あなたと おはなしをしている ゆめ
わたしが にんげんになれたら
あなたは きづいてくれるかな ほほえんでくれるかな」
(あ・・・その歌・・・)
ゴロゴロ・・・ぴかっ・・・・!!!
雷が近づく
でも、湖(猫)も鈴(人)も驚きも不安な顔にもならない
ただ、お互いの目を見ていた
雨は霧のように細かく降っている
(鈴・・・)
『とどくかな
とどけばいいな
とどいてほしい
いつか わたしの すきがとどくように』
湖(猫)が、続きを歌えば
それは鳴き声ではなく、声になっている
鈴(人)が、にこりと笑って手を差し伸べた
その手に重ねるのは、淡い光りを放つ人の手