第19章 私が猫で、猫が私
噂は、信長気に入りの姫の話とありすぐに広まっていく
―湖姫様の妹姫らしい
-まだ童だとか・・・
-いや、ご病気で心だけ童だと・・・
-双子らしいときいたぞ・・・
市で露店をひらく幸村の耳にも届く
「おい・・・あの猫娘、姉妹がいるのか?」
正面には客は居ない
すると、物陰から佐助が現れ首を傾げる
「いや、初耳だ」
「・・・ちょっと調べてみるか」
風呂敷に物をしまい始める幸村
佐助も同意するかのように「じゃあ、また後で」と言い消えた
その頃、鈴(人)は城下ではなく森にいた
城から出た鈴(人)は鷹の見える方向へと身体を向けていた
誰かの言った「鷹狩り」という言葉だけを頼りに、信長を探すつもりでいた
湖(猫)は、鳴き声を上げるがもう森に入ってしまったからには、引き返すより必死に道を覚えておくしかないと頭を切り換えた
既に、抱かれていた状態からも降ろされ、鈴(人)の横を並んで歩く湖(猫)
(きっと・・・鷹が居る方に信長様がいると思ってるんだよね・・・城外へ出たことは家臣の方達も見ていたから、報告が入るはず・・・私は、鈴とはぐれないように一緒に居れば・・・きっと皆が見つけてくれる・・・)
「木、たくさん、鳥、虫、花・・・たのしいっ」
探しに出たはずの鈴(人)だったが、次第に寂しさを忘れ自然の多さに楽しみを見いだし始めていた
「湖、きれい!」
『にゃぁ』
(鈴、楽しんでる・・・)
人になった鈴も、普段猫の鈴も、ほとんど城の中で過ごしている
外に出るとすれば、必ずと言って良いほど誰からの懐の中で自由に動いたことは数少ないかも知れない・・・
そう湖は思った
(まぁ・・・少しだけならいいか・・・)
湖(猫)はため息を付きながら、鈴(人)から離れずに歩いた
途中で花を摘んだり、鳥を追い回したり、虫を捕まえたり、鈴(人)の行動は、本当に童のようだった
ぽつ、ぽつ・・・
『にゃ』
(あ・・・雨・・・)
「あめ・・・雨・・・」
ぽつぽつと小さく降り出した雨に、天を仰ぐように上を向く鈴(人)
しばらく両手を広げて天を仰いだまま、着物もしっとりと濡れてくる