第19章 私が猫で、猫が私
「・・・あそぼ・・」
ぽつりと、鈴(人)から声が漏れたが誰も返事をする者は居ない
腕の中の湖(猫)はその温もりでうとうと寝てしまっている
広間の襖前で、じっとしている鈴(人)に家臣が声を掛けた
「おはようございます。鈴姫様、ご機嫌いかがですか?」
「・・・」
いつもならニコニコ笑う鈴(人)が顔を伏せったまま反応を示さない
「鈴姫様?」
心配した家臣が顔を覗き込めば、泣出しそうなその顔に驚く
「っ・・・いかがされましたか?!姫様っ?!」
他の家臣達も、異常に気づき寄ってくる
ぽたん、
「困ったぞ・・・信長様は、もうすぐ戻られるが・・」
「姫様、私たちと遊ぶのいかがでしょう」
「・・・っそんな、泣かれないでくだされっ」
ぽたん、ぽたん・・・
大粒の涙が床に落ちる
いつも居る面子が居ないだけで不安が募る鈴(人)
ぽたん・・・
涙が湖(猫)の耳にも落ちる
(・・・ん・・・)
温もりからどうにか目を覚ませば、周りががやがやとしていることに気づく湖(猫)
(あれ?どうかしたのかな?)
ぽたん、ぴちゃん、
今度は鼻先に水が落ち、湖(猫)はその顔を上に向けた
すると、自分の顔から涙が落ちている
(え?鈴??どうしたの??)
『にゃあ』
「あ、よかった。湖様が起きられたぞ」
「湖ちゃん、鈴姫様が泣いて・・・」
「おい、猫に頼るな!我らでどうにかせねば、御館様に・・・」
「何をいう!湖様の世話のやきよう・・・あれは、世話役と変わらぬ!」
「あぁぁ、姫様。どうか、泣き止んで下され」
この騒ぎは、鈴(人)が泣出したせいだと理解できたが、なんで今、鈴(人)が泣いているのかが解らない
とにかく、泣き止ませようと腕の中にいた体制のまま背伸びをし、その涙を舌ですくう
ざらりと、冷たい感触に鈴(人)が気づいた
「湖っ・・・」
すると、その身体をぎゅうと抱きしめられる
「みんないない、鈴、悪い?」
(みんな・・?あ、信長様たちって事?鈴が悪いことやったから皆がいないって事かな?)