第19章 私が猫で、猫が私
「失礼いたします」
襖が開けば、そこには信長たち以外にも家臣達が数人控えていた
全員が、その方向を振り向く
そこにいたのは、光秀と異国の着物を着た女
「湖・・・様?」
誰かが、そう声を発した
それと同時に、鈴(人)がまっすぐ信長に向かって走り出した
「のぶながっ!おはよ」
広間の真ん中を突っ切り、信長の上座に構わず乗り抱きつく彼女に家臣達は顔を青くし絶句する
不穏な空気が漂う広間
「・・・鈴、久しいな」
実際に、信長が鈴(人)に合うのは三日ぶり
久しい・・・とは言わない時間だが、なまじ間違ってはいない
急に抱きついた女の頭を撫でれば、彼女は満足そうに笑い信長の胡座に収まるように座った
そして、そんな彼女に抱きしめられていた湖(猫)は、するりとそこを抜け上座から降りた
信長の前に座ると『にゃお』と鳴いて、彼を見上げる
「湖、貴様はずいぶんしとやかに見えるな・・・来い」
ニヤリと口角を持ち上げ、猫呼ぶ信長
呼ばれた猫が上座に上がって信長の横に座れば、鈴(人)にしたのと同じように湖(猫)の頭を撫でる
「皆に知らせる・・・三成」
「は・・・。こちらは、湖様の妹君で鈴様です。以前、お伝えしていた通りしばらく安土でお預かりいたします・・・鈴様」
三成に、呼ばれ鈴(人)は信長の膝からぴょんと降りると
上座から降り正座をしたあと丁寧に頭を下げた
「鈴・・・です。おねがいします」
ぴょんと、猫もその隣に座り『にゃお』と鳴いてみせる
「そして、湖様です」
ひととおり紹介が済めば、家臣達も鈴に頭を下げる
そして内心皆、どきどきしながらその場を見守りながら報告などを始める
なにせ、紹介された姫は湖と瓜二つ
なのに、その動作はまるで童で信長をはじめ各武将を呼び捨てにし、まるで猫のように動き回る
それを、彼らはいとも自然に受け止め構っているのにも驚く
更に、湖という猫にも
まるで鈴(人)の保護者のように、時折鈴(人)を止め黙らせているようだ
変な空気が漂う中、ようやく広間はいつもの顔なじみだけになる