第19章 私が猫で、猫が私
この夜遅く、三成は秀吉に見送られ馬にて出て行った
「じゃあ、頼んだぞ」
秀吉は、三成を見てから彼の腕の中で眠る鈴(人)の頭を撫でる
鈴(人)は羽織りに包まれ傍目には解らない
『にゃぉ』
そして、三成の懐から顔を覗かせる湖(猫)の喉も撫でてやる
湖(猫)は気持ちよさそうに喉を鳴らし、秀吉の指先を舐めた
「湖も、落ちるなよ」
「では、お二人を光秀様の所へお連れして朝までには戻りますので」
「あぁ。気をつけろ」
誰にも気づかれないそんな時間に御殿を発つ三成
光秀は、このために近くの領地へわざわざ出向いていた
本来は光秀が出向くまでは無い用ではあったが、今回の目的は湖と鈴だ
この二人を安土城へ連れて行くことだ
一度、秀吉の御殿から連れ出し、いかにも外から来たかのようにする演出だ
馬を走らせる三成の懐から顔を覗かせる湖(猫)
「湖様、休まれていても大丈夫ですよ」
三成がそう言うも、横に首を振り短く鳴くだけ
耳が風にあたりぱたぱたとなびく
(こうなってから・・・三日・・・特別不便はしていない。私も、たぶん鈴も・・・)
三成の懐から見る景色は、人の目で見る景色とは違った
色は、赤みが抜けセピア・・すこし古ぼけたように見えた
その分、夜はよく見える
実際、今も暗闇に潜む兎やネズミが見えている
人である三成には、気配は感じていても見えてはいないと思われる
(知識として知っているのと、実際に見るのでは違うな・・・視野も広い。でも、すこしぼやけて見える…いつもは短時間だったから、さほど意識はしてなかったけど)
感覚に慣れるまでは、少し苦労した
人である湖は目に頼りがち
この数日で、鈴の身体にもなじんだ
(なじめばなじむほど、不安になる。もう元にはもどれないんじゃないかと・・・)
「・・・大丈夫ですよ。湖様、たとえどれだけ刻がたっても・・・お戻りになるのをお待ちしていますよ」
不安になって黙って居れば、三成が声を掛けてくれる
(三成くん・・・)
『にゃぉん』
(ありがとう)
しばらくすると、闇の中たたずむ人が見えた
『にゃぁ』
(光秀さんだ)