第19章 私が猫で、猫が私
「せめて御館様だけでも、「様」が付けられないか?鈴、言って見ろ。「のぶながさま」だ」
飲んでいた水を置くと、鈴(人)は首を傾げながら
「ひーよし」
と、秀吉に駆け寄って抱きつく
湖(猫)はと言えば、もう見慣れたというように動じなかった
「湖、お前も考えろ」
秀吉がそう言うと、湖(猫)は卓上にある紙の上に上がると尻尾でトントンと文字をさす
【否】【難しい】
という二文字を
紙には他に【可】【賛成】【拒否】などいくつか文字が書かれている
「・・・まぁ、ここまで出来れば大したものか・・・」
ふぅと、鈴(人)の背中をぽんぽんと叩きながらため息を付くと
【賛成】の文字を尻尾で示す湖(猫)
紙は、三成が考えたものだ
湖の意志を確認するための手段
ちりりん・・・
湖(猫)の首に巻かれた紐についている鈴の音がする
鈴(人)の連れてくる猫は別の猫という事になっているため、飾り紐を一時変えた
湖(猫)の髪をまとめている紐同様、青い紐だ
首の後ろで、ちょうちょ結びされており、飾りに銀色の鈴がついている
湖(猫)が動けば、鈴も音を立てた
そして、鈴(人)が動いても、同様の音を立てる
「そういえば、昼・・・政宗様がいらして、鈴様の追加の着物を置いて行かれました。こちらに・・・」
三成が、秀吉に包みを渡す
それをひらけば、政宗が持ってきた漢服同様のデザインをし色味の異なるものが数点
見慣れた柄があるところを見ると、お針子達に作らせたものだと解る
「・・・みんな、楽しんでいるようだが・・・肝心の元に戻る前兆のようなものは無いのか?湖」
湖(猫)は首を振った
(三成君も家康も色々試してくれた。鈴(人)に犬と合わせるとか、私が鈴に口づけするとか・・でも、全然変わりない・・一生このままなのかも・・)
しょんぼりと髭を下げる湖(猫)を自分の膝にのせると、三成はその背を撫で言った
「湖様、大丈夫ですよ。きっと戻れます」
確信もないその言葉
だが、そう思うしかないのだと湖も思った
『にゃぁ』
短く猫が鳴いた