第19章 私が猫で、猫が私
香りを嗅ぎ、湖(猫)を膝に下してから口を開く
「・・・湖のものだな・・・」
「左様でございます。いつも、鈴様からは草木のような匂いが。湖様からは花の甘い香りがするのですが・・・香りも変わっております。女中達も、湖様の香りについては承知しているはずです」
『にゃっ?!』
(香り・・・って?!そんな匂いするの・・・??)
信長の膝に座る湖(猫)が、クンクンと自分の鼻に前足を近づける
(・・・香りなんて・・しないけど・・・)
「鈴様には申し訳ないのですが、幼い頃病で伏せられご病気なのだ・・・という事にすれば、隠さずとも無邪気な姫で通るかと・・・少々無理はありますが、そこは信長様の周知でごまかせるかと考えています」
「・・・別人とする・・・それは、悪くは無いな」
『んにゃ』
信長は少し考えるような仕草を見せた
「湖については建前で織田家縁の姫・・・としていますが、そんな家族構成まで作って後々面倒くさい事になりませんか・・・」
ぼそっと家康が零すが、他に案は浮かばない
「ひとまずは秀吉。きさまの御殿へ湖と鈴を連れていけ。数日で戻れば良し。戻らねば、三成の案を使う」
「はっ」
「しばらく貴様の御殿に住まうぞ」
「は・・・・・・?!まさか、信長様までいらっしゃるつもりで・・・」
『にゃにゃ!』
「当然だ。何かあれば、城に出向くが、普段の報告は貴様が此処で代わりにうけろ」
「なっ・・・」
秀吉の口が開く
「何を仰るんですか?!御館様が安土を開けられるわけでもないのに、俺が代わりをするなんてできません!」
「・・・支障ない」
「駄目です!湖で遊ぶつもりならば、お手すきの際にいらして下さい!」
『にゃ!!!』
「信長様、秀吉様。先ほどより、湖様が何か言いたそうです」
四人の視線が猫に集まる
湖(猫)は、尻尾をばしばしと畳に打ち付けながら何度か鳴く
が、当然伝わらず
「貴様、何か言い分があるようだが。言いたいことがあれば、さっさと戻るんだな」
信長にばっさり文句を斬り捨てられた
『っにゃぁあ!』
(戻れれば、さっさと戻ってます!!)