第18章 秘密の抜け道(裏:謙信、信長)
昔、初めてここに来た頃の湖であれば、無表情だとおもっただろう
でも、今は違う
(この人の心は、本人が自覚していない感情がある。そしてそれが、見えにくい表情なだけ・・・)
信長が生きてきた環境を聞いたことがあった
兄弟に疎まれ、暗殺されそうになったこと
野望の為に、ただひたむきに突き進む姿勢
そのために、常に命を狙われる存在であった事は、湖でも理解出来た
「お酒・・・一人だとたくさん飲まれますね」
「・・・なんだ」
「酔わないんですから、他の家臣の方とも飲めば良いのに」
クスリと笑い、空いた杯に酒を注いだ
「・・・貴様、茶化しているつもりか」
「私には、羽目をはずしても大丈夫ですよ」
注がれた酒が揺れた
「・・・何が言いたい」
「何を怒っていたのか・・・あんな行動をみると、一つしか思い当たらないんです」
「・・・」
「・・・着物・・・ですよね?」
注がれた杯から酒が無くなった
「あれは、私の着物が汚れて、謙信さまがかわりにと用意してくれた着物です。ただそれだけですよ?」
「・・・簡単に用意できるような品物ではなさそうだがな・・・」
「そう?なんですか??」
きょとんとする湖を見れば、他に言いたいこともあるが口もとが緩む
「!・・・やっと、いつもの信長さまです」
にこりと笑う湖
「俺は普段と変わりない」
「さっきはありましたよ・・・結構怖かったです」
「・・・変わりない」
「謙信さまたちと、対峙した次くらいに怖かったですよー。殺気ってすごいんですね?私、息止まっちゃいました」
「・・・」
コトンと、杯が床に置かれる音がした
同時に腕を引かれ、その身が信長の中に収まる
「・・・信長さま?」
「ならば、貴様は俺と対峙する側へは立つな」
顔を見上げれば、少しだけ悲しみがうかがえる
「・・・今日は、怒ったり、悲しんだり、忙しいですね。信長さま」
「覚えがない」
「あなたに覚えが無くても、私はそう感じるんです」
信長の頬に手を伸ばす湖
「信長さまの見えにくい心、だんだん見えるようになってきました。だから、思ったままに行動して良いんですよ・・・あ、でも殺気は当てないで下さい。本当に怖かったんですから」
「・・・何を言いたいのか、理解出来ん」