第18章 秘密の抜け道(裏:謙信、信長)
謙信の声に、全員が湖の様子を伺った
滑り落ちるように馬から降りた湖
着地の際、痛めた足に体重が乗ったのか、わずかに顔をゆがめる
だが、そのまま少し足を引きずりながらも、双方の間に立った
「・・・何の真似だ、湖」
信長の声が上から突き刺さるように聞こえた
息を吐くと信長を見上げ、その目を見た
そして、ふわりと笑って見せた
「鬼ごっこは終わり、なんですよね?」
「・・・」
後ろに組んだ手が震えるのは、信玄たちの目にはいる
無意識か、湖はぎゅうと、手を暖めるように固くする
「湖さん…」
背を向けた方から、佐助の声がした
(・・・今、私の目の前にいるのは、いつもの信長さま)
自分に言い聞かせるように、落ち着かせるように深呼吸をする湖
「湖・・・」
信長が自分を呼ぶ柔らかい声に、手の震えが収まる
「信長さま、戻りましょう?」
その時、信長の後ろにまた蹄の音が聞えだした
今度は、大勢のものだ
くるりと、謙信達の方に向き直った湖は、信長に向けた笑みと同様のものを四人に見せた
「今日は・・・久しぶりに、みなさんと話せて楽しかったです。信玄さま、幸村、助けてくれてありがとう。佐助くんの抜け穴!サイコーだよ。見つかっちゃったけど」
クスリと、笑みを零して湖は謙信を見た
「謙信さま、春日山城に遊びに行きたいです。いつか、兼続さまにも会いたいです」
謙信からの申し出の返答は出来ない
解らないのだ
みんなと居ることが心地よくて、こんな自分が嫌だと思うこともある
でも・・・
「私も、いつか誰かと一緒になる・・日が来れば、幸せです」
(私は、この時代の人間じゃ無い・・・佐助くんと、帰るべき世界に帰るかも知れない。ずっと此処で生きるかも知れない・・・でも、いつか誰かと共に生きて、お伽話みたいに【いつまでも仲良く暮らしました】ってなりたい・・・)
「でも、今は、まだ・・・」
「・・・そうか」
視界に影が落ちた
信長の手が伸びてきて、後ろから持ち上げられるように抱えられる
それは、湖が自分の物であると見せつけるような姿だった
「わ・・・」
「・・・貴様は、勝手に傷を作るなと言ったはずだ」
「っ、すみません・・・」