第18章 秘密の抜け道(裏:謙信、信長)
ふぅ・・・と、背から聞えるため息に湖は耳を塞ぎたくなっていた
(ひさしぶりに・・・ひさしぶりに会えたのに・・・私なにやってるんだろう・・・)
乗馬を指南していたことに後悔はない
黙って城を抜け出したのは、許可がもらえないと思ったから
でも、相談すべきだったのかも知れない
秀吉なら許可もくれたかも知れない
そしたら、こんな怪我しなかったかもしれない
ぽんぽんと、頭を撫でたのは大きな手の平
「・・・信玄さま」
「ほら、天女がそんな顔をするもんじゃない。甘い物でも食べて元気をだすか?湖」
「あんた・・・ほどほどにして下さいよ。それにしても・・・」
言い切らずに、じっと湖を見る幸村
「?」
なんだろう?そんな面持ちで幸村を見れば、彼は頬を少し染め顔を背けた
「・・・幸村は、君が綺麗だと言いたいんだ」
「なっ、なに言ってんだっ佐助‼」
言い淀んだ幸村に変わって、口を開いたのは佐助だ
そして慌てる幸村
「え・・・」
「確かに。謙信の用意した着物はよく似合っている」
「落ち着いた赤が、湖さんの髪色にぴったりだ」
信玄と佐助に褒められ、湖の頬は少し赤みをさした
「・・・当然だ」
そして背から聞える謙信の声にも
「・・・孫にも衣装だな」
ぼそっと幸村がそう言えば、佐助が通訳でもするかのようにその口を開く「幸村は…」っと
それを横から「いちいち言い換えんなっ!」と幸村が怒る
ぽかんと見ていた湖だったが、その様子にクスクスと笑みを零し始めた
「なんだか・・・懐かしいです。春日山城に居たときのようで・・・」
クスクスと笑う湖を、信玄は目を細めて微笑んだ
「元気になったようで良かったよ」
「あ・・・。はい、信玄さま」
先ほどの思い詰めた表情は消え、今はにこやかな湖を見て三人は口元を緩めた
それから、信玄の持っていた菓子を囲み一時を過ごしたが、
やがて日が落ち始めた頃、湖が立ち上がろうと膝を立てた
「何処にいく」