第18章 秘密の抜け道(裏:謙信、信長)
「湖さん、しんたのこと。本当にありがとうございます」
「私たちは、構う暇も無かったので。あの子も相当喜んでいます」
そう言われ、湖はにこりと微笑み返す
「私も、嬉しいです。頼ってもらえて。しばらく此処には来られないのですが・・・しんたくんのこの様子だと、もう大丈夫ですね」
苦笑いを見せる湖に、両親は残念そうに表情を曇らせた
その時、貸していた馬の一頭が帰ってきた
両親が馬を迎えに行き、その綱が少年の父に手渡される寸前で、馬が暴れ出した
ひひーーーんっ!!
急な鳴き声に、両足を高く振り上げ暴れ出す馬
側にいた人たちは、幸い怪我もなくその場から逃げ出せたが、馬が治まらない
(・・っ何?!・・・あ・・・!!)
よく見れば、馬の尻あたりに蜂が居た
刺された馬が、驚き暴れ出したようだった
蜂は、その場を離れ飛んでいく
それと同時に、馬も走り出した
(っ・・・!!)
馬が走り出した先に居たのは、湖だ
思わず、身を固めたが、このままではこの場にいる人たちが危ないと・・・
走り向かってくる馬の手綱をどうにか握った
「っ湖さん!!は、離して下さい!!」
少年の両親が叫んだ
湖は、暴れ飛び跳ねる馬に半ば引きずられるようになったが、その手を離さず馬を止めようと宥めに掛かる
だが、馬が首を振ると同時にその身が飛ばされ・・・
(あ・・・っ・・・)
打ち付けられるそう思った
だが、その身は衝撃こそ合ったが打ち付けられはしなかった
「幸!」
「・・・っまかせろ!」
知った声
どっっどっ
馬が足踏みを大きくするものの
その馬に跨がった人物が、上手く馬を宥め落ち着かせた
「よしよし・・・落ち着けよ・・・」
赤い着物
「ゆき・・むら?」
「俺もいるよ。勇敢な天女さん」
上から振ってくる声に、乱れた髪も気にせず顔を上げれば、そこにも見知った顔がある
「っ信玄さま!」
すっかり落ち着きを取り戻した馬を両親に返すと、幸村はこちらに戻ってきた
「ったく、何処が勇敢だ。無謀なだけだろうが・・・」
軽く握ったこぶしで、頭を叩かれる
「こら、幸。女性に対してそれはないだろうが。しかし・・・確かに少々危険過ぎたな、湖」
「あ、その・・・ご心配おかけしました」