第16章 かごの中の鳥
「湖様・・っ」
三成が心配そうに湖を見る
信長が、政宗に視線を向けると
政宗は軽く頷き、エルマーから少し距離を置いた
それを見た湖は、ゆっくりとエルマーの方へ歩きだす
途中すれ違った政宗に、何かあればすぐに斬る・・・と、小声で言われ頷いた
『ハンナ・・・』
起き上がることができないエルマーと視線を合わすように、湖はその場に膝を付き、懐から手拭きを取り出した
そして、その手拭きに挟んだイヤリングと小刀とエルマーに見せる
『・・・私はハンナさんではありません。彼女は、もう居ない・・・解っているはずです』
『っ・・・ちがう、君はハンナだ・・・っ』
『・・・・・・』
俯いて、頭を押さえるエルマーの手を取り、その手に二点を乗せてやると湖は
『・・・エルマー公爵、あなたの愛した姫はお亡くなりになりました』
そうはっきり伝えた
とたんに、エルマーの手が震え出す
『姫の代役を探しては・・・彼女が悲しみますよ・・・』
『・・・・・』
震えた手で、それを握ろうとすれば
小刀だけが下に落ち、エルマーの手の中にはイヤリング片方だけが残った
見れば、彼の左耳にイヤリングの片割れが飾られている
『・・・戦争の黒幕を突き止めた。ようやく終わった・・・終わって迎えに行けば・・・ハンナはもう居なかった・・・』
エルマーが話し出したのを、湖は黙って聞いた
『彼女も、彼女のものもすべて燃やしたと言われた・・・残ったのは、彼女に贈るはずだったイヤリングだけ・・・信じられなかった。何も無いから、すべて嘘だと思った・・・だから、こんな事までして探し回っていたんだ・・ハンナを・・・っ』
『・・・本当はとっくに解っていたのでしょう?』
『・・・・・・』
(この人は全部理解している。でも、認めたくなかったんだ。恋人が亡くなったことを)
口を開こうとした
が、動けない
(え・・・)
誰かに縛られているかのように、身体の自由がきかない
(・・・金縛り・っ・・・)
目線を下げれば、イヤリングがほんのり光っているのがわかる