第16章 かごの中の鳥
(・・・まさか・・・)
意志とは無関係に、口が動き声が出てくる
『・・・しょうがない人ですね・・・エルは・・・』
『っ・・・?!』
目を大きく開け、エルマーが湖を見る
いや、湖ではない
ハンナを見ているのだ
(う・・・そ・・・)
意志とは関係なく、話し出す自分の身体
まるで、自分とエルマーを別の位置から眺めているような感覚
『・・・ハ・・ハン・・ナ?』
エルマーは、震えながら湖を見る
湖の様子が変わった事に気がつき、信長達は刀を構えだした
いつもの湖とは異なった雰囲気を感じ取ったのだ
『はい』
『ハン・・・ナ』
『・・はい。私は、ずっと側にいたんですよ』
湖の身体は、エルマーの髪を掻き分け
そこにあるイヤリングに触れ綺麗に微笑んだ
エルマーは両手で顔を覆い涙を堪えていた
『しょうが無い人ですね・・・私は、幸せに生きて欲しかったのに・・・』
『・・・君の居ない世界なんて・・・』
『・・・エル・・・では、私と一緒に・・・来ますか?』
『っ・・・君と一緒に・・?』
ハンナは信長たちの方を一度振り向く
彼らは、これが湖では無いことにすぐに気づいた
湖の目が、青かったからだ
「異国の姫か・・・」
信長の問いに、頷いて答えるハンナ
「湖をどうする気だ・・・」
『彼女はすぐにお返しします。安心してください・・・』
にこりと笑う彼女は、はかなげで湖とは異なった笑い方をしてみせる
言葉が頭に直接語りかけられる、不思議な感覚だ
『・・・私の・・・夫がご迷惑をおかけしました。もうしわけありません』
エルマーを夫という彼女
彼女の手を握るように、俯き泣くエルマー
『彼は、私が連れていきます。もう離れません・・・』
エルマーの頭を、ゆっくり撫でながら彼女が言う
『皆さんに、この姫に・・・』
「もういい。さっさといけ」
信長が、彼女の言葉を遮れば、それは悲しそうに笑って頷いた
そして、彼のうなだれる頭を抱え込むようにすれば・・・
二体は、動かなくなった