第16章 かごの中の鳥
ようやく地面に下ろされた湖に背を向け、エルマーは着ていた黒いシャツを脱ぐ
その背には、大きな切り傷があった
『・・・人さらいをしに来ていたの?』
『あぁ、聞いたんだ。お姫様も大変だね、こんなところまで連れてこられるなんて』
『エルマー、お前っ何をしてるんだ!!』
どこからか、男が入ってきた
謁見に来ていた三人の中の最年長の男だ
『ばれたからには、即この国を出るって言っただろう』
『聞いた』
『じゃあ、なんでまた女を・・・』
男は、湖の顔を見ると酷く慌てだした
『寄りによって、この女をつれてくるなんて・・・っ、気が触れたか?!』
『いや、俺は至って正気だ』
『中止だと言ったはずだっ』
『湖は、連れて帰る』
(連れて帰る・・・?え・・・)
「湖?」
また別の声が聞える
ヤスフェだ
だが、彼は体中傷だらけで血まみれだった
「ヤスフェさん?!どうして・・・っ」
彼に駆け寄ると、その傷跡を確認する
刀傷のようだった
『途中で、待ち伏せにあってね。ヤスフェには盾になって貰った』
『っ・・・、ひどい・・・仲間を盾になんて・・・』
『仲間?・・・っふ、そいつは買われたんだ。主人の命令はきかなければならない・・・』
エルマーの顔が酷くゆがんだ
『お前もだ!主人の命令を聞け!!』
年配の男が、ひどく怒っている
『俺に買われた分際で、勝手な事をするな!』
『確かにな・・・だが、買われた金額分の仕事はこなした。もう恩は無いはずだ』
『何を勝手な事をっ・・・』
男は、銃を取り出しエルマーに構えたが、それより早くエルマーは彼の腕に短剣を投げつけ銃を落とした
『あんたには、買われた恩がある。割と、平等に扱って貰ったしな・・・だが、その対価は既に支払い済みだ。もう恩はない』
『っ・・・、どの道、この国を出られなければ死ぬだけだ!勝手にしろ!』
『俺は、死ぬ気はない。ようやく、取り返したんだ・・・』
そう言い、先ほどの黒いシャツから白いシャツに着替えたエルマーが、湖に近づく
湖は、後ずさりするもすぐに追い込まれ身動きできなくなった
『やっと・・・愛しい人を』
(っ、エルマーさん・・・私を)
『ハンナ・・・』
(間違えてる・・・ちがう・・そう思いたいんだ・・・っ)