第16章 かごの中の鳥
ギターを持った男性が奏でる曲が気に入ったようだが、
急に歌を所望された湖は絶句だ
「何を呆けている、歌え湖」
「・・・き、急ですよ、信長さま」
湖は、手をわたわたと振るも・・・ギターの音色を聴きながら当てられそうな曲を考えた
「御館様、たしかに急ではありませんか」
秀吉が助け船を出してくれる
(この音色・・あの曲なら・・・あの人が合わせてくれれば歌えるかな?)
思いついたのは、父親がよく口ずさんでいた曲だった
すっと立ち上がると、ギターを弾いている男の方へ向かう
『あの・・・、お願いしたいことが』
『?』
音が止んで、湖と目を合わせた男に一瞬逃げ腰になる湖
大きな手に太い指、真っ黒な肌に真っ黒な瞳
その瞳は悲しげに揺れ、そしてどこかに怒りの色を秘めている
そんな感じがしたのだ
『彼に英語は通じません。ヤスフェは、インド出身なのです。彼は、私たちの荷物運びや、このように音楽に通ずるので宴の盛り上げを行うのです』
湖が、黒人に近づいたのを見てエルマーが寄ってきた
『そうなのですか・・・エルマーさん達は、言葉が通じるんですか?』
『・・・いえ、でも身振り手振りでどうにか・・・』
(・・・?どうして、言葉も通じないのに一緒に行動しているんだろう??)
不思議そうにしていれば、エルマーはそれを解ったように話はじめる
『湖は…ご存じないかもしれませんが、人を売買して使うという手法があるのです・・・』
そう気まずそうに笑い話すエルマー
(売買・・・奴隷ってこと?)
『あ、誤解されないでください。ヤスフェに関しては、私たちは仲間だと思っていますよ』
『・・・そうですか・・・』
ヤスフェに向き直れば、彼は先ほど見せた表情を消し、代わりに強ばった表情をしている
(私が、なにか酷いことをすると思っているのかな・・・)
湖は、ヤスフェの横に座ると身振りでギターを弾くように頼んだ
そして、どうにか弾いて欲しい音色を伝えると
ヤスフェは頷いて、それを弾いて聞かせる
(すごい・・・ちゃんと通じてる・・・)