第15章 攫われた姫 (裏:政宗、謙信)
湖がそんな事を言わないと解って言葉にだす謙信
その胸に、手を添え額を付ける
(やっぱり・・・謙信さまは優しい)
「はい・・・いつか」
(それでも、私は自分を拾ってくれた仲間から離れられない・・・まだ・・・)
「いつか」そんな答えがかえってくるとは思わなかった謙信は、一瞬目を見開きそして柔らかく笑った
「・・・兼続が・・・うるさくてかなわん」
「?・・・兼続さま・・・ですか?」
「姫を取り戻せと、騒がしくしていた・・・今は落ち着いたが、居なくなった直後は止めるのも面倒な程で・・・」
何かを思い出したように、謙信は眉を潜める
そんな謙信を見て、湖はクスクスと笑い出す
「挨拶、できませんでしたからね。その内、逢いに行ってみたいです」
「いつでも来ればいい」
「・・・はい」
出来ないと解っていてそんな会話をする二人は、悲しい表情は見えない
今は、お互いに逢えた事に満足しているようだった
「・・・まさか、鈴で連れ出されるとは思っていませんでした」
「賢い猫で良かったな」
「そうですね」
「・・・いい方法が見つかった」
普通に話をしていた湖だが、その言葉にドキリとし、謙信の表情を見た
「お前が「逢いたい」と思えば、すぐに攫ってこれる」
「え・・・」
(それって・・・昨日の・・・)
「何処で・・・見ていたんですか?」
「お前が覗いた茶屋の一角で・・・なにか文句でもあるのか」
「文句というか、疑問というか・・・。でも、謙信さまと政宗が鉢合わせしなくて良かったです」
ふっと笑うと、謙信は湖の腰を引き自分の膝の上に引き寄せた
「わ・・・」
湖の体温を感じながら、謙信はその温もりを覆うように抱きしめる
「あの・・・」
「お前がこうして欲しいと言ってるように見える」
(あ・・・)
ひんやりとした指先で頬を撫でられ、触られたそこがほのかに熱を帯びた
息遣いがすぐそばまで迫って、顔中が真っ赤になっていくのがわかる
「・・・急に大人しくなったな」
「謙信さまが、急に変な事いうから・・・でしょうっ?」
「変な事、ではない。お前が、喜ぶことをしているだけだ」
鼓動が静かに速度を上げて、このままじゃ謙信に伝わりそうだった