第14章 化け猫と私【後日談】 (表:信長・秀吉 裏:他四名)
■信長編【表】
深夜、天主に続く道を静かに進む姿があった
月が昇り、今夜は雲もなく明るい夜だ
襖の前まで来ると、人影は深呼吸するように一息つく
「信長さま、起きていらっしゃいますか?」
普通の人なら、寝ている時間
「・・・湖か・・・入れ」
静かに襖が開き、湖が姿を見せる
寝衣に羽織を羽織っている湖
「貴様は、家康が外出禁止にしたと聞いているが」
「・・・はい」
外へ張り出した板張りの部分に腰掛け、酒を飲んでいた信長が振り返らずにそう言う
湖は、襖を閉め信長の近くに腰を下ろすと、深々と頭を下げた
「何の真似だ」
「・・・昨日のお詫びを改めて・・・」
「今朝も言っただろう。貴様の面倒などたいしたものではないと」
「・・・お怪我されたと聞きました」
「・・・光秀か・・・秀吉がぼやいておったな・・・」
顔を上げた湖が信長の右腕を見る
「あの血が当たった部分か・・・」
着物をめくれば、腕に切り傷に火傷のような跡があった
さほど大きくはなさそうだが、着物をあげれば怪我だと直ぐに解るようなものだ
「っ・・・」
傷を見た湖の目に涙が溜まった
「たいしたものではない」
信長は、何も無かったように酒を飲み続ける
「済んだなら、部屋に戻って休め」
そう言うも、湖に動く気配はない
「湖」
チリリン・・・
髪飾りの音がする
「ごめんなさい・・・私が勝手に動いて・・・みんなに迷惑掛けて・・怪我までさせて・・・」
「・・・これは、貴様のせいで出来たものではない。もとより、あの化け猫になったものを城下町へ入れるのを防がねばならなかった」
「でもっ・・・私が、居なければ・・・光秀さんや、家康、三成くんも信長さま達と一緒に戦えたし、信長さま達が怪我しなかったかもしれない・・」
ぽたぽたと、湖の手に水が落ちる
「「かも」という推定は好かんが・・・確かにあそこに人数が居れば、俺のこの傷はなかったかもしれん。だが、貴様が居たからあの化け猫は止まれたんだろう」
「・・・」
「貴様の血で出来た猫を見た母猫は、一度止まった。そして、自分の子を殺した相手を知る事が出来たのだ」
杯を置くと、湖の方を向く信長