第13章 化け猫と私
(いけない・・・っ・・にげなきゃ・・・)
ずるずると、白粉の亡骸を抱え片足を引きずりながら出口の方へと身体を進める
煙管は、その横でずっと見守るようについて来ていた
『湖様っ、大丈夫ですか・・・』
「大丈夫っ、このくらい何ともないからっ!それより・・はやくでなきゃっ・・・」
(身体は動く・・・今、動けるのは私だけだもの!しっかりしなきゃっ)
ずるぅ・・・
引きづった足は、止血はしているものの細い筋を描くように血が滴る
それが着物にも徐々に染みついてきていた
太ももあたりに大きな黒ずんだ染みが足下に向かって所々転々と・・・
引きちぎった袖はボロボロ
ただ、不思議なことに出口までの道だけは湖の為に確保されたかのように開かれている
(この着物・・・気に入ってたんだけどな)
場違いな思いの浮かんだ自分に苦笑した湖
だが不意に、知っている香りを感じた
「・・・?」
振り向いても後ろは火の海だ
(・・・気のせいか・・・)
視線を前に戻して、歩こうとすると・・・
寺に走り込んできた人影と体当たりしてしまう
どんっ!
「きゃぁっ」
「・・・っ・・・!」
勢いで落としてしまった白粉を湖は急ぎ抱きかかえた
「貴様・・・、何者だっ・・・それに、お前は・・・‼」
湖を見て口を開いた僧侶姿の男は、横に見える煙管を見て目を見開いた
そして、舌打ちをして部屋の奥を見たあと
男の顔は豹変した
「っ・・・、きさ・・ま・・・っ・・・」
蛇のような瞳は湖を捕らえていた
顔の火傷は以前見たときより、ゆがみ崩れ、まるで溶けていくように
よく見れば手にも火傷のような傷が出来ている
「鏡・・・鏡をどう・・したっ?!」
ガラガラの声
(この人・・・こんな声じゃ無かったはず・・・)
「わ、割れて燃えあがって・・」
湖は、ビクリと身を震わせ答えると、その答えを聞き終わる前に男の足が上がった
ドッガッ・・・
『湖様っ・・!!』
腹部に痛みが走り、顔を床に打ち付けた
急な痛みに腹部を蹴られたのだと気づく湖
だが、白粉のことは離さず腕に抱き、顔だけ上げた
(・・・っ・・・もう・・・もうこの人・・人じゃ無い・・・っ)
見上げた男の顔は、恐ろしいものだった