第13章 化け猫と私
「・・・貴様・・」
信長が見下ろす、他の全員が見るそれは
小さな子猫の赤い塊、見知った飾りをつけている猫だった
それは、信長の懐にあった皮袋をくわえている
「鈴・・・」
政宗が最初にそれを呼んだ
呼ばれた子猫は見向きもせず、倒れている自分の何倍も大きい式神の鼻先まで進んでいく
そして、信長の懐から掠めた革袋を地面に置く
信長の着物には、血の跡がぺったりと付いていた
それは、あの大きな式神のものではなく、今自分の懐に入り込んだ小さな猫の物だ
その血を指で触れた
「・・・まさか・・・あの時の猫か・・・?!」
僧は子猫を見るとぎょっとした
「お前は、殺して血抜きもしたんだ・・・なぜ、此処に居る・・・」
ふらりと、後ずさりとすれば、化け猫の視線が僧に向けられる
【・・・殺シテ血抜キ・・・貴様ガ・・・?】
声とも声じゃ無いとも言えない音が響く
僧は慌てたように、手に巻き付けた数珠を式神に向けると、その音は直ぐに止んで、子猫の姿が見えていないように式神が立ち上がった
「・・・お前は、俺の式神だっ・・・あいつらを殺せ・・・」
そう言い僧は寺の方へと駆け出す
「くそ、待ちやがれっ!」
政宗が追う様子を見せれば、式神が襲ってくる
顕如はその隙を突いて、僧侶を追った
狂った式神の足下には、あの鈴に似た赤い猫
家康は、その猫と革袋を急ぎ拾うと、振り落とされる攻撃を避け信長の元に
また三成もそれを確認しに一歩下がった
式神の攻撃は、政宗と秀吉で防がれ、時折苦しそうな式神の鳴き声が上がった
「城下町には、絶対に入れるな」
信長が二人に指示を出すと、家康は抱えているものを見せる
「・・・鈴・・だとしたら・・・これは湖の血か」
湖という名前に、その場の全員が反応を示す
その時、寺の火が勢いを増し燃えはじめた
林の奧の火災
信長は、家康にその2つを預け
「家康、三成、お前達は奴らを追え・・・おそらく其処に湖が居るはずだ」
「「はっ」」
二人が駆け出すのを確認し、信長は腰元の刀を抜いた
「このようなもの相手にするのは初めてだな・・・」
信長、秀吉、政宗に対峙する式神は、どろりとその姿が崩れていくようだった