第13章 化け猫と私
一方、寺へと戻った政宗が最初に出会ったのは、思いも掛けない人物だ
夕刻、今夜が僧侶の宣言した新月の夜だ
日が沈み、先ほどとは打って変わって暗くおどろおどろしい雰囲気を出す廃墟の前にたたずむ僧侶の姿
それは、顕如である
林の奧の寺をじっと睨むように立つ
「・・・お前・・・」
ちゃきっと、刀に手を掛ける
「・・・伊達政宗か・・・ここに何のようだ」
「同じことを聞き返す・・・なんでお前がここに居る」
二人が対峙したと同時に、林にいたカラスがギャーギャーと騒ぎ出した
「っ・・・!」
「なんだ・・・?」
寺の方から、ぶわっと生暖かい空気が広がる
それは、顕如にも政宗にも身体で感じ取れる異様なものだった
「っ・・・やはりか・・・」
顕如がポツリと声に出したことを政宗は聞き逃さない
「お前、何か知っているのか・・・」
「・・・せいぜい気をつけろ、伊達政宗・・・」
錫杖から刃を抜き出し、林の方へと構えれば、
木々の間から、人の二倍はあるであろう赤い物体が出てくる
血のように濃い赤の猫
それと、後ろから僧侶
僧侶は顕如に気づくと、一瞬驚き身を震わせたが・・・その後、口元をニヤリと笑わせ被っていた笠を取った
「これはこれは・・・顕如様・・・」
「教・・・やはりお前か・・・」
教(きょう)と呼ばれた男はニヤリとしたままその顔を崩さない
「ついに、信長に敵を討てるのです・・・顕如様、喜んで下され」
「・・・顕如、お前の仲間か・・・」
政宗の言葉を聞き流すように、顕如が教と呼んだ僧に聞く
「・・・教、お前・・・本願寺にあった神鏡(しんきょう)を盗んだな・・・」
「教、懐かしい呼び名ですね・・・あの日以来、私はななしの僧です・・・それに、盗んだのではなく、救い出したのです。あの神鏡(しんきょう)は力がある・・・陰陽道の力を授けてくれる・・・」
「あれは、本能寺で封印・・・あれこそ、あの火災でこの世から無くなるものだった」
政宗は、僧侶達の話をしばらく見守っていた
「手を触れてはいかんと、忠告したはずだ・・・あの火災の中、寺に戻ったお前が何処に行ったのか・・・ずいぶん、探していたが・・・最近の所行・・やはりお前か・・・」