第13章 化け猫と私
すべての息を吐ききるような長い息で
(・・・大丈夫・・・ひさしぶりで心配だったけど・・・今、やれる処置は全部出来たはず・・・)
「・・・終わったのか?」
政宗が部屋の隅に寄りかかっていた
「っ、政宗・・・うん・・・ごめんね、急に部屋を借りて」
「別に構わない。それより、その猫・・・大丈夫なのか?」
「・・・傷の手当てはしたけど・・・血を流している上、あんなに冷えた川に居たから体温も低い・・・」
するっと猫に手を当て撫でれば、小さな鼓動を感じる
「白粉しだい・・・」
(この子の体力と気力だけ・・・)
ぽたりっと、畳に落ちる水滴
湖は、川に入った事で着物が濡れ、猫を抱えていた事で着物も手も血が付いている
「なら、お前は湯に行って暖まってこい。着物は用意させる」
そう言われて、自分の姿にようやく気づいた湖は迷いながらも政宗の意向に従った
「・・・うん」
「心配するな。ちゃんと見ててやるから」
「わかった。ありがとう、政宗」
白粉と政宗を部屋に残し、湯殿へと足を運ぶ
(・・・今頃・・・手が震えてきた・・・)
獣医として仕事をしていた自分が、その仕事を辞めたのには理由がある
仕事も動物も、動物を助ける使命もすべて湖は大切で捨てがたいものだった
ただ、運ばれてくる動物に虐待の様子がうかがわれる事が多く目に付くようになれば、それに怒りを感じ、悲しみを感じ
やがて、助けても助けても運ばれる彼らを処置する自分は、ひどい仕打ちをしているのではないだろうか・・・
そんな風に考えるようになってしまった
助ける仕事が、かえって彼らをひどい目に遭わせていないか
虐待動物たちに対して、メスが握れなくなった
だから、仕事を離れたのだった
湯殿へ着くと、着ていた着物を脱ぐ
付いている血をじっと見つめ、その着物を握り閉めた
(この時代でも・・・やっぱりあるんだ・・・自分より弱いものへの虐待・・・)
湯に入れば、想像以上に自分の身体が冷えていたことに気づいた
「・・・今日は、ここに泊めて貰おう・・・」
気になる白粉
だが、不用意に動かすのは身体に負担が掛かる
湯から上がった湖は、用意されていた着物に手を通した
そして、政宗の待つ部屋に戻れば、其処には・・・
褥が引かれ、他にも白粉ように手桶や止血布が揃っているのだ