第10章 敵陣の姫 第三章(裏:謙信)
家康の顔、政宗の顔、三成の顔、そして光秀の顔
どれも自分は知っている
響く頭痛と刀の音
頭の中の箱が徐々に開くように、怪我した自分を心配そうに見つめる家康の顔
崖から落ちる寸前に見た政宗の顔
城を出る際、からかいながらも気をつけるようにと、注意された光秀の顔
心配そうにそれでもいつものように微笑む三成の顔
「・・・みんな・・・」
みんな知っている
私の大事な人たちだ
(どうして崖から落ちたのか・・・思い出した・・・山賊に襲われて・・・あそこから落ちたんだ・・・)
あの時の政宗は、すごく険しい顔だった
(ドジってごめん・・・って、落ちながら謝ったんだ・・・)
落ちている最中に鈴の声が聞えて、意識が途絶えた
鈴が助けてくれたんだと、今解った
(怖っかったよね・・・鈴・・・ごめんね・・・)
落ちた湖を、謙信達が見つけ保護してくれた
熱くて、あまり覚えていないけど
(泣いてしまいそうな家康の顔は覚えてる)
(私、きっと大勢の人に心配掛けて、迷惑掛けてる・・・)
敵方の人間に対し、上杉の人たちは謙信をはじめ皆親切で優しい人だ
記憶が無かったのも理由の1つだろうが、まるでずっと越後にいるように心地の良い場所だった
両者一歩も引かない刀の交わし合い
(私・・・もう思い出した・・・現代から戦国に来たこと。信長さまに拾われた事・・・)
(謙信さま・・・思い出してしまいました・・・)
ぎゅっと拳を握り、前に歩き出す
(・・・だから、もうやめてください・・・)
「っ、湖さん!」
いち早く佐助が気づくが、湖は既に走り出していた
そして、謙信と家康の間に
「やめてくださいっ!」
しかし、双方刀を振るった直後で止められず
謙信は家康の刀を払い落とすように軌道を変えた
家康もまた刀とは別方向に、肩で湖の身を押した
周りは、その様子に一瞬止り、その場を見た
誰もがスローのように見えた
湖が、大井戸の方へ足を滑らせ落ちそうになっているのを
ぱしっ・・・!!
謙信が、湖の右手を掴み自分の方へ引っ張ると
湖は、謙信の腕の中に収まり、反動で謙信が膝を付き湖を抱き留めた